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偽クロ銀から脅威の瞬発力で飛び退いたみるく、混乱の余り、泣き出してしまった。
海はじっとしていられなかった。
クロやトナカイが止めるのも聞かずに、大泣きするみるくの元へさくさく駆け寄り、ちょこんと寄り添う。
「大丈夫?」
「ままのにおいなのにぃぃーままじゃなぃぃー」
みるくは優しい海に抱きついてわんわん泣き続ける。
大柄なみるくの両腕に溺れた小柄な海、それでもあやすように猫耳魔物の頭を撫でてやる。
クロは全く面白くない。
偽クロ銀は両手いっぱいに掬い上げた雪でごしごし顔を洗っている。
そして。
「驚かせてごめんなさい、みるく?」
元の顔に戻った銀、常に濡れた光を帯びる妖しげな双眸に銀縁眼鏡をかけ直し、絹糸の如き長い銀髪を組紐で一つに縛った。
いつもと同じ姿の銀を前にしたみるく、ぼろぼろ流していた涙を瞬時に引っ込め、ぱぁぁぁっと眩い笑顔に。
「ままーーー!!!!」
「よしよし、胸糞悪くなる顔でびっくりしたでしょう、みるく」
「うん!!!!」
「せっかく雪が積もっていますし、雪遊びでもしましょうかねぇ」
「うん!!!!」
「おい、人の夢で勝手に遊ぶな」
渾身の力を込めて我が身に抱きつくみるくを撫でている銀にクロは舌打ちする。
胸を撫で下ろした海は。
クロの脇腹におさまっている夢見妖魔の濡れたようなまん丸黒眼とばっちり目が合って……、……。
「あらぁ、起きたの?」
目が覚めた海の視界に飛び込んできたのは。
愛らしい夢見妖魔を抱いて共に眠るクロと、その足元で横になっている銀と、その真上に覆いかぶさるようにして寝ているみるくと。
パイプベッド縁に腰掛けて絵本を読むグラマラスの姿だった。
「……グラさん……」
「お目覚め、いかが? クロの夢は楽しめた?」
「え、っと……なんだか……普段とあんまり変わらなかった、です」
グラマラスは可笑しそうに声を立てると「コレ読んだら豆乳ココア淹れてあげる」と言い残し、挿絵の綺麗な絵本の続きへ戻っていった。
しょぼしょぼする目を擦って、海は、まるでヌイグルミみたいな夢見妖魔を懐に抱いて黒縁眼鏡をかけたまま眠るクロを見下ろした。
……もう夢の中でケンカしてないですよね、クロさん?
「……この……ばかども……が」
クロの寝言に海は長い前髪下で目をぱちくりさせた。
自分の夢の中で勝手に戯れる銀とみるくに彼のマッドサイエンティストはやっぱりお冠らしい……。
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