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19-またもメリークリスマス
街の一角にどーんと設置されたクリスマスツリーの点灯式。
海は双子の姉である空と一緒に、たくさんの通行人に紛れて、遠目に見ていた。
「では、すいっち、おーん!!」
一足早いサンタのコスプレをしたアイドルが点灯ボタンを押すと、豪華な飾りつけのツリーが一斉に華やかな光を纏う。
天辺には巨大お星様、たくさんの電飾が様々なカラーで宵闇に派手に煌めく。
歓声を上げて撮影する通行人、空もトンボ眼鏡をこっそり下ろして、夜を明るく彩る色とりどりのクリスマスツリーに見惚れた。
「ねぇねぇ、綺麗、すっごいね、海?」
「うん。キラキラしてるね」
「早くクリスマスのご馳走いっぱいいっぱい食べたいね!」
何でもすぐ食に結びつける食い意地の張った姉に頷いてみせ、海も、光り輝くツリーをしばし仰ぎ見ていた。
翌日。
海は誰にも内緒の恋人に会いに「マッドネス」の秘密地下実験施設をこっそり訪れた。
「ああ、海、おいで」
小さな恋人を出入り口で出迎えたクロはすかさず手を繋ぎ、アクアリウムを髣髴とさせるラボへ通すと、すぐそばに寄り添わせてアンデルセンの絵本の読み聞かせを強請った。
最近のクロのはまりごと、それは自分が未見の物語を海に読み聞かせてもらうこと。
今でも絵本が好きな海はパイプベッドにちょこんと座って、寝そべるクロを背後に、ページを開こうとする。
「こっちに、海」
クロはもっとそばに寄り添うよう、海の手を引き、マットレス上に横にさせた。
海は照れながらも腹這いになって手渡されていた絵本を声に出して読み始める。
「悪魔の持っていた鏡の破片が一人の少年の目と心臓に……」
白衣の裾をパイプベッドから食み出させたクロは頬杖を突き、ゆっくり音読する海を黒縁眼鏡越しに見つめ、物語を真摯に聞いていた。
長い前髪で双眸を隠した海は、最初はたどたどしかったものの、何度も読んだはずの物語に再び引き込まれて次第にただ純粋に音読に集中していった。
おたまが水槽でちゃぷちゃぷ水浴びしている間、海は一つの物語を読み終えた。
「二人は結ばれたんだな、海?」
「そうだと思います」
「いい話だな」
「はい、僕も好きです、だけど……雪の女王が可哀想な気もして、でも、そういう部分も含めて、全部好きです」
ぱたんと絵本を閉じた海の髪をクロは長い五指で梳くようにして撫でた。
そっと前髪をかき上げて、その可憐なる双眸を直に覗き込む。
「お前は優しいな、海」
クロに抱きしめられた海は眠るように目を閉じた。
二人ともパイプベッドの上で靴を履いたまま、おたまがちゃぷちゃぷ立てる水音を聞きながら、互いの温もりにじっと身を寄せていた。
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