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「君、どこのプリンセス?」 「初めて見るなぁ」 「お見知りおきを、僕は隣国の外交担当であります」 青毛美しい黒馬の引く馬車で舞踏会にやってきた海は忽ち紳士達に囲まれた。 双子の姉とそっくりな大きな双眸を久し振りに外気に露にした海は、困ったように笑い、輪の中心からなんとか逃れる。 おいしそうな食事が並ぶテーブルへやってきたものの、タッパーを忘れてきたことに気づき、海は悩んだ。 どうしよう。 空姉ちゃんのことだから袋に詰めて帰っても平気で食べると思うけど。 そうこうしている内に王子が舞踏会へ現れた。 花嫁候補に志願するお嬢様達は一気にテンションを上げてきゃっきゃうふふとはしゃぎ始める。 そんな中、一人テーブル周囲をぐるぐるうろうろする海は本人の意思とは裏腹に目立つこととなってしまい。 「なんて可愛らしい女の子だろう、君の名前は?」 「えっ」 自然と左右に分かれた群集の間を進んできた王子に問われて、海は、硬直した。 海の動揺などお構いなしに王子はその手をとる。 それが合図であったかのように開始されたゴージャスな演奏。 ドレスの裾を踏まないよう、わたわたする海は、困り果てる。 ダンスなど踊ったこともない。 誰もが見惚れるだろうキラキラ輝く王子様の微笑み、強引なアプローチ、戸惑うばかりだ。 「あ」 急なターンに海はよろけた。 王子と手が離れ、傾いた上体はそのままぐらりと背後のシャンパンタワーへ……。 目を覆いたくなるような大惨事は海とシャンパンタワーの狭間へすかさず割り込んできた彼によって免れた。

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