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「危ない、姫君」 「あ……」 ファントムの扮装、仮面をつけて顔の上半分を隠したクロは腕の中の海に笑いかけた。 速やかに体勢を立て直すと、驚いている海の手をそっととって、緊張を取り除いてやるように。 薔薇色の頬にキスを。 「あーーーー!!」 「きっ彼奴はマッドネス! 秘密魔法結社マッドネスのDr.クロ!!」 「近衛兵、かかれぇぇ!!」 ものものしく武装した近衛兵に囲まれたクロと海。 海を守るようにクロは片腕で愛しい仮姫君を抱くと、目の前でわなわな震える王子に告げた。 「姫君は俺のもの、気安くダンスに誘うな、ヘボ王子」 その時。 舞踏会入り口で黒馬からグリフォンと化したモンスターが大暴れを始めた。 けたたましい鳴き声と破壊音に皆が気をとられた瞬間、クロは、城の電気系統中枢に仕掛けていた小型爆弾のスイッチを押す。 ぼがぁぁぁぁぁん!!!! 大騒動が繰り広げられる暗闇の中、海を抱き上げ、すでに招待客からこっそり失敬していた高価なるアクセサリーをマント内でじゃらじゃら言わせ、クロは華麗に退散した……。 「クロさんってあのマッドネスの魔法使いさんだったんですか?」 「ああ」 「知りませんでした」 「ショックか?」 海は首を左右に振った。 二人は屋根裏部屋に戻ってきていた。 ベッドでぐうすか眠る空のいびきが静寂に響いている。 クロは黒縁眼鏡の白衣姿に、ドレスを脱いで顔を洗った海は前髪で目を覆い隠すといういつものスタイルに戻っていた。 「……クロさんの腕の中、あったかくて、ほっとしました」 ああ、攫ってしまいたい。 なによりもいとおしいこの存在を連れ去ってしまいたい。 しかし心優しい海は空と離れ離れになるのを拒むだろう。 大食漢の空は、はっきり言って、そばにあまり置いておきたくない。 とにかく早く空をどこぞの嫁へと追いやって海を自由にしなければ。 まぁ、また次の機会があるだろう……。 「海、俺のそばから離れないでくれ」 「……離れません、僕、クロさんと一緒にいます……クロさんが迷惑じゃないなら」 健気なことを呟く唇に誘われてクロはキスしようとした。 その気配を察した海は長椅子の上で咄嗟に顔を背けた。 「だ……だめです、空姉ちゃんが」 「ぐうすか寝てる、お前の姉さんは」 「だって……舞踏会に行く前、クロさんのこと、むっつりって……」 「……」 「空姉ちゃん、僕たちのこと気づいてるんじゃ……、っ」 別にそれでも構わないと、クロは、海に結局キスをした。 海はもう嫌がる素振りも見せずに白衣の両腕に身を委ねていく……。 時間制限のない恋の魔法はそうして海とクロを結びつける。

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