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「試着地獄で窒息しそうでしたので先に帰った次第です」
「ああ、それにしてもよく似合うね、私の見立てを最大限に活かしてくれる逸材だ、しろがねは」
「貴男に逸材呼ばわりされても嬉しかぁないですねぇ」
「あ、私としたことが。君の美しい手に何の飾りもしないで申し訳ないね。今すぐネイルショップを予約しよう」
「フーーーー!!」
全員手先が器用なマッドネス、中でも一際優れている銀は美しい五指を持っている。
他者の話をあまり聞かないイヴレスは銀の手を恭しくとろうとし、膝上にいたみるくに威嚇された。
グラマラスはまじまじとそんな父子を眺め回す。
「ちょっとぉ、銀」
「なんですか、グラマラス」
「どこが〈おやじ〉なのよ、みるくパパ」
「おやじでしょうが、みるくと比べてごらんなさい」
イヴレスの外見年齢は三十歳前後だった。
〈えろおやじ〉というワードから、てっきり中年ど真ん中を想像していたグラマラスは銀の言葉に呆れ返る。
「比べる対象がおかしいわよ。じゃあ、私もあんたもおばちゃんおじちゃんじゃない」
「ええ、そうですよ、グラマラスおばさん」
「しろがね、こちらはお仲間の方かい?」
みるくの威嚇をものともせず、我が物顔で銀の肩に腕を回すと、イヴレスはにこやかにグラマラスにご挨拶を。
「私はこのアマラントスの不肖の父、イヴレスといいます、お嬢さん」
「ど不肖ど助平、と訂正してください、あとお嬢さんだなんて、見え透いたお世辞は却って失礼千万です」
「あらあら、どぉも、お二人ともご丁寧に」
「しばらくしろがねは私が預かりますので」
「銀を嫁にするんですって?」
「ええ、それはもちろん、初夜が待ち遠しい、あ、痛い」
「フーーーー!!」
がぶりと我が子に噛みつかれてもイヴレスは銀に馴れ馴れしく密着したまま。
銀はその腕を振り払って今すぐにでもみるくとアジトへ帰りたい気分であったが。
如何せんイヴレスは超上級魔物だ。
粛々たる雰囲気でありながら時に見せる人懐っこい笑顔、少年じみた振舞は第三者からしてみれば魅力的に写るだろうが。
本体が魔物だと知っている銀からしてみれば警戒対象に値する。
無邪気に残酷なことを仕出かすかもしれない。
まだ謎の多いイヴレスに全力で反発することができない銀なのであった。
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