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「夜、一緒に眠ってもいい?」
「無理です、狭いので」
「クィーンサイズだけど?」
「僕ぁ寝相がひどいんです、もし添い寝するというのなら、目覚めてメスがどこかに突き刺さっていても文句はナシですよ」
「じゃあ、アマラントス、どこに寝かせるの?」
「みるくは小さいので問題ありません」
イヴレスは銀の片手を両手で愛しげになぞった。
ピアニストのような彼の長い指の爪達は黒マニキュアで彩られている。
派手ではないモチーフつきの高価なシルバーリングがいくつか。
「邪険にされるのには慣れていないから」
一つのリングを外すと、戯れに、銀の薬指にはめたイヴレス。
「益々、ほしくなる」
無断でリングをはめられた薬指にキスされて、銀は、いい加減拒絶の台詞を述べるのも億劫になり、無言でいた。
「ねぇ、しろがね、どうしたらいいの? 薔薇の花束? 色鮮やかなカクテル? 見果てぬ世界? 何をあげたら私にその心と体を許してくれる?」
「……湯冷めしそうです、イヴレス」
「あ、本当? じゃあ私がベッドで暖め直して、あ、うわ」
びっしゃああああああ!!
微妙に泡風呂の嵩が減っているような気がしていたが。
潜ったみるくが胃袋に溜め込んでいたらしい。
泡だらけの顔をざばりと出すと、イヴレスに向かって溜め込んだお湯を一斉に吐き出した。
「フーーーーー!!」
「アマラントス、悪い子だなぁ、お風呂は口に溜めて吐き出すものじゃないのに」
「湯冷めしますよ、イヴレス」
「あ、じゃあしろがねが暖めてくれる?」
懲りないえろおやじイヴレスに銀は何度目かの苦い苦いため息をつくのだった。
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