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「えっ海くん?」
「急にヌイグルミ投げてどうしたの?」
「虫でもついてた?」
「あんなところまで投げるなんてすごい、しかもまだバウンドしてるし」
「あ、うん、ちょっと取りにいってくるね」
内心、気が気でない海は友達の輪から飛び出すと大慌てでおたまの後を追いかけた……。
「海」
「……クロさん?」
そこは先生があれだけ入るなと注意していた雑木林の中。
頭上高くで生い茂る木々の葉に日差しを遮られ、真昼でも薄暗く感じられる、たくさんの落ち葉が降り積もった静かな場所。
おたまを夢中で追いかけて我知らず林の中に分け入り、はぁはぁ息を乱して走っていた海の前に。
白衣を纏ったマッドサイエンティストのクロがゆっくり姿を現した。
先日、恋人の海から今日が遠足だと聞いていたクロ、何となく物寂しくなってやってきたのだ。
同年代の友達と野外行事で楽しいひと時を過ごす、素敵な思い出作りだ、邪魔をする権利など当然ない、ないのだが。
どうしても子供じみた嫉妬が頭を擡げてしょうもない衝動を無視することができなかった。
「どうやって来たんですか?」
「グラマラスにバイクで送ってもらった」
「え、バイク……? 白衣で……?」
「別にそんなに目立たない、俺は地味だからな」
肩におたまを乗っけたクロに頭を撫でられ、ただただ驚いていた海は、前髪で半分隠れている顔をやっと綻ばせた。
「きっと共鳴したんですね」
「……俺と海が?」
嬉しいことを言ってくれると、こっそり、きゅんっとしたクロであったが。
「クロさんとおたまです」
「……俺とこいつが?」
「だっておたま、クロさんの気配を察して、ここまで僕を連れてきてくれました」
あんまりこいつと共鳴したくないと、おたま創造主のクロは肩で居眠りしかけているおたまを素っ気なく見やった。
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