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第11話 明かされる真実
「素股はした事ある?」
来た、と思った。だが、意外な言葉だな、とも思った。いきなりアナルセックスにならないのは、正直、有り難かったが。
「い、いえ……」
正直に答えると、ミツキさんは、ふうん、と言っただけだった。俺が、直ぐアナルセックスに持ち込むタイプだと思っているんだろうか。ああ、本当に、どうしよう。不安から、俺のペニスは、しょぼん、と萎れている。
「してみる?」
「えっと……」
「ああ、怖い?」
聞かれて、俺は、目を彷徨わせた。それをどう取ったのか、ミツキさんがそんな事を聞いて来る。慌てて首を横に振った。
「い、いえ、そんな事はありません!」
「そっか。じゃあ、まあ、やってみようか?」
「は、はいっ」
勢いよく頷くと、ころり、と転がされる。え、と思っている間に、枕を腹の下に入れられた。そして、両膝を揃えられる。え? え? どう言う事だ!?
「あの、ミツキ、さん?」
「ん? 何?」
ミツキさんの声が、耳に掛かって、ぞわぞわ、と快感が背中を走る。全然知らなかったけど、俺は、耳が弱かったらしい。
「え、ぇっと……」
「耳も、弱いんだ?」
「ふあっ、」
ふ、と息を吹き掛けられて、何を言わなければいけないのか、分からなくなる。俺は、思わず右手でシーツを掴んでいた。その手に、ミツキさんの手が重なる。
「ここ、蟻の門渡り、って言うんだけど」
「ひあっ!」
アヌスの近くをそっと触れられて、びりびり、と何かが背中を走った。何か、なんて、決まっている。間違い無く、快感、だった。
「ああ、良い反応。ここを狙ってね、すると良いんだよ」
ずる、と何かが尻の間を動いて行く。さっきの、すごく感じる所も含めて。明らかに、ミツキさんの、立派なペニスだった。
「ひぅ、や、ま、待って、くだ、」
俺が、必死で止めようと腰を動かすと、それに合わせて、ミツキさんは腰を動かしているようだった。ずるりずるり、と何度も何度も気持ち良い所ばかりを擦られて、訳が分からなくなる。
「怖くない、でしょ? 気持ち良いよね~。ナオのここから、沢山お汁が出てるよ~」
「や、やめっ、あっ、あっ、」
全然、怖くは、無かった。ミツキさんの温かい手が、添えられていたから、じゃない。全身、あちこち、性感帯を刺激されて、気持ちが良過ぎて、どうにかなりそうだったからだ。俺のペニスが、ミツキさんの手に納まる。くり、と勃ち上がった半被りの亀頭を剥かれ擦られて、びくん、と身体が跳ね上がった。
「やあっ、あっ、あっ、ま、待って、」
「このまま、一緒に、イこうね~」
ずるりずるり、一定の速度で擦られる。前も後ろも、気持ち良くて、訳が分からなくなる。俺は、目をつぶって、快楽に身を委ねるしか無かった。
そこからの事は、正直、余り覚えていない。すごかった、としか、言いようが無かった。所々記憶に有るのは、ミツキさんの優しい手と、優しい唇と、優しい声と、それから、立派なペニスだった。本当に、立派なペニスだったのに……、俺は、それを、初めてだと言うのに、易々と受け入れてしまったのだった。何処に、って、それは、その、俺のアヌスに、だ。
「上手だね」
そう言われる度に、どうして良いか分からないのに、ミツキさんの手に翻弄されて。
「可愛いよ」
こう言われる度に、嬉しくて、力が抜けてしまって。
「ナオは、本当に感じ易いね」
これだけで、もう、快感が極まってしまって。自分が、どろどろのバターにでもなったような、そんな蕩けるような感覚がした。本当に、めちゃくちゃに、沢山、簡単に、イかされた。
そんなこんなで、俺は、もう、どんな顔をして良いのか分からない状態だった。穴が有ったら入りたい、いや、穴に入れられたのは俺だけど。ああ、俺は、本当に何を考えているんだろう。
「身体、きつい?」
終わった後、俺の短い髪を、面白くも無いだろうに、ミツキさんはいつまでも弄んでいた。その触れ方が、本当に、優しくて丁寧で。俺は、枕に顔を埋めたまま呟く。
「いえ、大丈夫、です」
がらがらの、酷い声、だった。如何に、さっきまで、翻弄されていたかが分かる。ミツキさんは、良い子良い子、をするように、俺の頭を首筋まで優しく撫でてくれた。丁寧な接触は、本当に心地好くて。思わず、俺は思っている事を口から零してしまう。
「……俺、ミツキさんは、ネコだと、思っていました」
「あはは、そう、みたいだね」
ミツキさんの声は、全然、悪びれて無くて、むしろ、俺は、何でミツキさんを見ずにこんな事を言っているのだろう、と言う気持ちになって来た。そろそろ、とミツキさんの方に顔を向けると、すごく優しい目をしたミツキさんが居て。俺は無性に泣きたくなって、それを誤魔化す為に、また枕に顔を伏せた。
「ミツキさん、すごい、良い身体、してますね」
何かを言わなければ、と思って、俺が声を出すと、ミツキさんは、はは、と快活に微笑った。
「僕、実は、喧嘩っ早くて。ただ、相手からは、ほら、こんな顔でしょう? 舐められるんだよね。それが嫌で、つい自分から仕掛けちゃうんだけど。それを何とかしようとして、親が色々習わせたんだよ。自律を促そうとしてとか何とか言って。柔道とか剣道とか合気道とか」
どれも段持ちだよ、と続けられて、絶句する。三つ段持ちって、本当に有り得るのだろうか。いや、ミツキさんなら、やれてしまうのかもしれない、と思う。あの身体を見たら、納得だ。
「まあ、今は、キックボクシングがメインだけどね〜」
「キックボクシング……」
ミツキさんとキックボクシング、と言うイメージがつながらない。ミツキさんは、大人しく可愛い物を愛でているのが、似合っていると思っていたのに。あの、縫いぐるみのような物を。でも、あの身体を見たら、確かに納得だな、とも思う。
相変わらず、ミツキさんは俺の短い髪を梳いてくれていて。その爪が、つやつやな癖に、とても短いのに気付いたのも、今日だった。まあ、その、何だ……察して欲しい。
暫くしてから俺は、ぽつりと口を開く。
「でも、あの、その……」
「うん? 何?」
ミツキさんは、俺の声をしっかり聞こうと顔を寄せて来る。相変わらず、甘くて何処か酸っぱい良い匂いがした、でも僅かに汗の匂いも混じっていて、それがすごく淫猥な感じがして、俺は益々恥ずかしくなって枕に顔を埋めながら、それでも、これだけは、と思って口にした。
「ミツキさんは、すごく、素敵な、タチ、ですね」
「……それって、褒めている?」
訝しげに聞かれて、慌てて、ば、と顔を上げると大きく頷く。悪戯が成功した、みたいなミツキさんの顔が見えて、ああ、失敗した、と思った。それでも、伝えなければ、と思い口を開く。
「最大限に、褒めてます」
「ふふ、嘘だよ。ありがとう。ナオも、可愛いネコだったよ」
俺は、ネコなんだろうか? 本当に? ちゅ、と目蓋に愛らしいキスを仕掛けて来るミツキさんに、俺は、途轍も無く、複雑な思いを抱いたのだった。でも、ミツキさんになら、ネコにされても、何でも良いや、と思う気持ちもあって。ミツキさんの傍に居られるのなら、何をされても、何になっても、良かった。
それから暫く、また沈黙があって。俺は、今日こそ聞けたら良いな、と思っていた質問をぶつけてみる事にした。
「も、もし、聞いて良いんなら……」
「うん、何?」
「ミツキさんの、名前、教えて貰えませんか?」
「ミツキ、だよ」
あっさり答えられて、びっくりする。悩むとか迷うとか、無くて良かったのか!? って言うか、本名!?
「えっ!?」
「光に希望の希で、光希」
思わず驚いて身体を上げたら、腰が、どうにも重怠かった。いてて、と口で言いつつ、また横になる。アヌスにも、すごい違和感があった。痛くは無かったけど。本当に、丁寧に優しくミツキさんは俺を開いてくれたから。ちょっと思い出してしまって、赤くなる。
「ほ、本名なんですか!?」
「うん。だって、どうせ偽名だと思われて調べられないでしょう。ま、調べられても、僕は後ろ暗い所なんて、無いしね」
「か、格好良い……」
思わず口から漏れていた。こう言う、潔い人なんだなあ、と思う。こう言う所にも、俺は好感を抱いていた。本当に、顔に似合わず、男らしい性格なのだ。
「ナオは?」
「直幸です。直角の直に、幸せで、直幸」
俺も、素直に自分の名を言う。
「じゃあ、ナオのままで良いね。呼び易いし」
「はい」
ナオ、とミツキさんの柔らかい声で呼ばれるのは。俺も大好きだった。それに、まるで自分が可愛い生き物みたいに思えるから、嬉しかったのだ。
「可愛いし」
「えっ!?」
俺の想いが分かっていたかのような発言にびっくりして顔を上げると。ミツキさんはにっこりと微笑ってとんでも無い事を言い出した。
「じゃあ、一緒に、お風呂、入ろうか?」
「ええっ!?」
またも脈絡の無い事を提案されて俺が狼狽えていると、ミツキさんは楽しそうに微笑った。可憐に、可愛く、そして、素敵に、格好良く。
俺が散々必死で断ったにも関わらず、最後は、ミツキさんにお姫様抱っこまでされて一緒に風呂に入る事になったと言う事実は、正直、抹消したい。
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