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第八夜

 街からの帰り道、ふと視界の端にボロ雑巾のような塊を見つけた。 一体何が落ちているのかと近寄って確かめた瞬間、息を飲んだ。 (人間の子供だ……)  子供には無数の擦過傷と殴打の痕があり、とこどころ乾いた血液がこびりついている。 肌も服も泥にまみれ、虫の息だ。 取りつけられた足輪とタグを見て、彼が売り買いされた子供だということはすぐにわかった。 乱暴に扱われ、弱ったところを捨てられたに違いない。  手当をしようにも、こんな状態では帰り着く前に事切れるのが目に見えている。 仮に生き延びたとして、バケモノがそばに控えていたのでは怖がらせてしまうだけだ。 (いっそ彼もバケモノにしてしまえば……)  いや、そんなことはするべきではない。 このまま人生を終えたほうが彼にとっては幸せなはずだ。 けれど見なかったふりもできない。  葛藤の末、レイは首にぶら下げていた小瓶を取り出した。 一粒の雫が淡く発光する。水滴の正体は、満月の魔力を宿した狼の涙だ。  小瓶を握りしめ、レイは呪文を唱える。 人間のまま延命することは不可能なのだから、こうするほかない。  子供は幼い命を取り留めた。 ただし、大きな耳と尻尾、鋭い牙を持つ狼男へと姿を変えられて。

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