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第十ニ夜

 その日を境に、彼はレイの醜怪さをものともせず、後ろをついて回るようになった。 夜毎寝室に忍び込んでは“いっしょにねんね”を要求するので、何度目かの夜、レイは気になっていたことを尋ねた。 「そろそろ名前を教えてくれないか?」 彼は何かを堪えた表情で答えた。 「……ない」 「ない? なぜ?」  重ねて問えば、毛布を握りしめてかぶりをふる。 「……今日からないって、父ちゃんが……」  言葉が夜の闇に溶け、最後までは聞こえなかったがレイにはわかった。 彼の父親は我が子が人として扱われないことなど承知の上で、大金と引換えに彼を売ったのだ。  言いようのない怒りが湧き上がった。 この子を死ぬほどつらい目に合わせるなんて。

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