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第5話
「天使様は人のセックスが見たいって? そういう趣味?」
武典は、引くわぁ、と付け加えた。
「たわけか。さっきも言ったけれど、これは上司、つまり神ちゃんからの指令なんじゃよ。今、人間界から愛がどんどん減っていての。それを危惧した神ちゃんが、瀕死となった奴らに、こういったチャンスを与えているんじゃ。汝、誰かを愛せ、って。選んだ霊体をここで出会わせて、愛し合えたら命を救うって流れでのぉ」
「それって成功する確立めっちゃ低いやん?」
翔は首をかしげる。
「だよなぁ。普通、出会って一時間で愛し合えはしないよなぁ」
「一応、お互い好みそうな組み合わせにしてるんじゃけど。それ、調べるのも面倒くさいんだからの……」
翔は武典を見つめた。
「愛ね。愛、あるよ?」
「うん。あるな。これでいいんじゃね?」
武典が翔の手を握る。
「証拠がいるんじゃ、証拠がぁ!」
荒らげた口調で、少年は話を続ける。
「身体は正直だからの。愛があるのとないのとだと、セックスに違いがでるじゃろ。さっさと、ハメい!!」
ぜーぜーと肩で息をする少年。
武典は、翔へ視線を向ける。
「面倒だし、やっちゃうか?」
「いいけど、俺タチ専だから」
「えっ、翔も? 俺も、俺も。なっかまー!」
彼らはぱぁん、と二度目のハイタッチをした。
「ってことで、ハメられません!!」
ふたり同時に叫んだ。
「声を、はもらせるな!! んなことは知らん!」
少年の額に青筋が立つ。
「抜きっこじゃ駄目なん?」
翔が無邪気に尋ねた。
「だ、め、じゃ!」
少年は歯軋りをした。彼の膝に、小さな卓上時計が現れる。
「一時間じゃ。アラームが鳴るまでにセックスしなければ、おぬしらをあの世行きのバス停に案内するからの」
「えっ、バスであの世に行くん? せめて高級車がよかったんだけど」
翔は唇を尖らせる。
武典が深々と頷いた。
「バスなんて、なぁ。俺は、戦車とかそういうゴツいのがいいわ」
「そうやって阿呆な話をしている間にも、おぬしらの本体が雪に埋もれてゆくんじゃが?」
少年はテレビを顎で示すと、半ズボンのポケットから小さな布のようなものを取り出し、ふたりの前に放り投げた。
「はい、敷布団」
と、彼が言ったら、それはぶわっと膨らんで、敷布団に変化する。
「掛け布団はいらないじゃろ」
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