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第7話
争うふたりの体格はそんなに差がなく、背が数センチ高い武典に対し、翔はわずかにガタイがいい。自らに伸びる手を互いにバシバシ叩き落とし、ついに武典が有利な組み手をとった。そのまま彼は、翔を引き手側に引き、身体を入れようとする。
「おおっといくか!? いくか大外刈り!」
やめろと言われたにもかかわらず、少年は熱のこもった声で叫ぶ。実況を続けたいらしい。
武典の軸足が、翔の釣り手横に踏み出す―かと思いきや、翔はそれをさっとかわす。完全に身体が入っていなかったようだ。わずかに体勢を崩す武典。
すぐに翔の反撃が始まる。釣り手を上に突きあげ、引き手は下に引き、ひねるような形で、武典の体勢を大きく崩れさせた。そこから内に足を刈る―が、弱い。重心を前に置いた武典は、倒れない。
しかし翔の反撃は、それだけではなかった。流れるような動作で身体を入れ、釣り手を自らの前方に引き出す。引き手は手首を返すように自らの背中側に持ってゆき―腰をぐんっと回した。
「っぉおおおおおっ!」
武典は叫び、前に置いていた重心を後ろに戻そうとするが、すでに遅く、身体が床に叩きつけられる。
荒れた呼吸を整えるふたりに、少年は笑いかけた。
「はい、一本。しかしきれいに決まったのぉ。小内刈りからの背負い投げなんて、基礎的な連続技だろうに。あっけないものじゃ」
武典の上から翔は身体を退かせ、床に腰を下ろす。
「それな。へへ、俺、背負い投げ苦手だもんで。まさかやるとは思わなかった、そうだろ? 武典くぅん?」
翔は得意げな表情をしている。
ころりと身を反転させ、武典は床にへばりつくような格好となった。
「い、嫌だ。悪夢だ。畜生、マジかよ。嘘だろ……」
「さて、時は待ってはくれんからの」
武典の後頭部をぺしり、と叩いて少年は言葉を続ける。
「布団のとこに戻るぞ?」
ひとりはうきうきとスキップをしながら。もう一方はまるで通夜に参列するような表情で、先を歩く少年に続く。
「布団に上がる前に、柔道着を脱げぃ」
少年からの指示に、ふたりは従った。互いに恥じらう素振りはまったく見せずに全裸となり、布団に上がって、なぜか正座で対面している。
「正座ではなく股を開かんかい」
と、言いながら少年は、椅子に座る。
「まず、よろしくの挨拶をしようかと思って」
武典が言った。
「俺も、いただきますと言うつもりで」
妙にきれいな動作で、翔は頭を下げた。
武典も同じく頭を下げる。
「あ、そういえば」
少年は半ズボンのポケットから小さなパウチを取り出して、ふたりの間に放り投げた。
「ローションあげる。わし、優しいじゃろ?」
「っ、うぅぅあああ、鬼か。悪魔か。こんなふうに俺の初めてが奪われるとは!!」
布団へ突っ伏し、武典は呻く。
「ま、いいじゃん? お互い童貞じゃあないんだし?」
翔があっけらかんと言った。
「そりゃあそうだけど、ケツは初めてなんだぞ。あぁ……」
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