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第11話

 少年は、静かにふたりを見つめている。 「おい、どっちも生き返らせろよ! 俺らはまだ、やりたいことがたくさんあるんだ! ふたりで色んなことやるんだよ!!」 「武典、よせよ……抗って、もしもおまえまで生き返れなくなったらどうすんだ」 「うるせぇ! うるせぇ……くそ。翔を失う人生なんぞ、まっぴらごめんだ。おまえが隣にいないなんて……絶対に、許せねぇ!」 「武典……これ以上俺を泣かせるなよ、っ」  翔はしゃくりあげた。 「感動的なシーンじゃから、うん、いいよって言ってやりたいところだがの。それをしたらわし、給料もっと減らされちゃうんじゃ」  少年が椅子から立ちあがる。  抱き合った状態で、ふたりは少年をぎろりと睨みつけた。 「おおっ怖いのぉ」  と呟き、少年は武典に視線を定めた。 「おぬし、今から本体に戻すけど、その場で泣いたらおぬしも終わりじゃからな」 「はぁ? どういう意味―」  武典が最後まで言葉を発する前に、少年はスッ、と彼の目の前に移動した。そして背中をくるりと向け、ランドセルのかぶせを開く。 「戻りなされ」  しわがれているが、不思議とよく通る声を彼が放った途端、武典の身体はどろりと溶けて、元の白い球体となる。それは、ランドセルの中にするりと吸い込まれていった。 「武典!? 武典!? っ、おい、何しやがった!!」  翔は立ちあがり、少年の肩をぐいと掴む。その途端、彼も武典と同じく身体が溶けて、元の球体となった。  床に転がった球体を、少年が拾う。 「さて、テレビ、テレビ」  ちゃぶ台の前に、彼はさらりと戻った。  テレビに映し出されているふたりの姿。  武典がううん、と唸りながら目を覚ました。 「っ、寒っ、うわっ、雪とか勘弁しろよ!」  歯をガタガタ鳴らし、空を見上げてから、隣に横たわる翔に顔を向ける。 「おい、寝てんな。起きろ! 死ぬ……ぞ……」  武典の表情が、めまぐるしく変化する。訝しむような顔をして、次にはっとし、それから絶望的な目つきをした。 「う、そだろ? 夢、だよなあれ」  武典の声はひっくり返っている。 「おい、冗談じゃあないぞ。おい、翔。起きろって!」  翔の身体を揺さぶるが、彼のまぶたはぴくりとも動かない。 「嘘だ。まさか、嘘だって、な? おまえ、何やってんの?」  武典は彼の頰を叩く。何度も叩き、身体を揺さぶる。 「何、寝てんの? 俺が呼んでんだ。起きろよ……起きろっ! 起きろ……」  翔の身体に積もった雪を手で払い落とし、武典は彼を胸に掻き抱いた。 「温めればいいんだろ。ほら、起きろって。てめぇ!!」  耳元で叫ぶが、翔は反応を示さない。 「嘘、だろ……あれは夢だって……もし、夢じゃあなかったとしたら……」  武典は強くまぶたを閉じて、俯いた。 「泣くな。泣くな、泣くな。こいつが……翔が与えてくれた命かもしれないんだ。こいつは俺の犠牲となったのかも……っ、だから、泣くな。泣くなって」  武典の声が掠れてゆく。一粒の涙が、翔の頬にこぼれた。 「思ってんのに。勝手に涙が、くそ。畜生。くそ。ごめん。翔ごめん。ごめんなぁ。俺が公園で酒盛りしようなんて言わなければっ……俺が。俺のせいで、ごめん。ごめん……っ」  彼は動かぬ身体を抱きしめたまま、天を仰ぐ。 「神様、神様……神様っ」  風が吹き、缶ビールが音を立てて転がった。

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