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第12話
テレビを見て、少年は鼻をすんっと鳴らした。
「ああ、感動じゃ。いい。これぞ愛。愛じゃて」
少年は滲む涙を袖で拭うと、ちゃぶ台に置いていた白い球体を掴み、ランドセルの中へぽぉん、と放り込んだ。それからまた、かじりつくようにしてテレビを見つめる。
テレビ画面の向こう側にいた武典は、翔の身体を抱きしめたまま、ひたすら「ごめん」と繰り返し詫びていた。その顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚れている。
「翔、翔ごめん。ごめん。きっと、俺もすぐに―」
「うっわ寒っ!!」
と、武典の声を遮る形で、翔が叫んだ。
武典は肩をびくり、と跳ねあげる。
「はっ!? えっ!? 翔!?」
「ちょ、寒いし。マジ寒いし。雪とか勘弁してくれよ」
ぶるぶる震えながら翔は、武典にすり寄った。
「ふー、これでまだマシか」
「いや、いやいやマシか、じゃあねぇし。え? あれやっぱ夢?」
武典の顔には、動揺がありありと浮かんでいる。
「夢? そういえば、いい夢を見たな。すけべなやつ」
楽しそうに笑いながら、翔は話を続ける。
「で、おまえ泣いてんの? 泣いたらいかんって言われた―あ、夢の話だった」
彼の発言を聞き、武典の顔が強張る。
「……泣いたら終わり、ってやつか? あの変態天使の」
「……ええと、え? 下品な天使、おまえの夢にも出てきた? まさか? 同じ夢を見てたとか?」
翔は驚いたような表情を浮かべる。
「ひょっとしたら、夢じゃあなかった、とか?」
「じゃあ俺ら、あれした?」
「あれって何だよ」
武典が尋ね返した。
「あれだって。あれ」
「あれじゃあわかんねぇよ」
「はは……ははは。ま、そうか。そうだよなぁ。いや、うーん。おまえ、ケツは大丈夫か?」
探るような目つきで、翔は武典を見つめる。
「ケツ? 平気だ―……っ、おまっ、マジか」
まぶたをぎょっと見開いた武典を見て、翔の顔が一気に赤らむ。
「あ、その反応。うわ、うわぁ……うわぁ」
翔はじたばたと手足を暴れさせ「急に照れてきたわ」と呟いた。
「まさかマジで俺ら霊体だったとか? ってことは?」
暫しの沈黙が訪れた。それを先に破ったのは翔だ。
翔は真剣な表情を浮かべ、武典の手を両手で包んだ。
「武典。ずっと隠してきたけど、俺、おまえのことめちゃくちゃ好きなんだわ。ダチとして、じゃあなくてさ。すっげえ愛してる」
武典が、ちっ、と舌打ちをした。それから頰を赤くし、何度かあー、うー、と呻いてから翔の目を真っ直ぐ見つめた。
「俺も愛してる。くっそ照れるなこれ。ああ、くそっ、愛してるよ。はは、実は俺のが先だったわ。一年半くらい前から、な」
ふたりの目には涙が溜まっている。どちらからともつかず、唇を寄せた。
彼らは触れるだけのキスを繰り返す。強く抱き合い続けるふたりの影を、外灯がちらちら揺らした。
唇が離れたとき、武典はぶるっと身震いする。
「そういえば俺、小便したいんだった」
さっ、と翔から手を離し、エリマキトカゲのように大股を開いて、武典は公園の端に向かってどたばたと走ってゆく。
「っ、ははは! おまっ、その走り方、マヌケすぎて可愛いわ!」
「うるせっ!」
と叫び、武典はたどり着いた先で立小便をする。
翔もふらつきながら、武典のあとに続いた。
「しかしあの天使、マジに下品だったな」
ズボンのファスナーを下げ、翔も立小便をする。
「俺の課題、あいつをモデルにしたる」
武典はふんっと鼻で笑った。
雪は降りやむ気配を見せない。
ピッ、とテレビの映像が消えた。少年がリモコンを操作し、電源を落としたのだ。
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