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第7話 イヤホンはんぶんこに関しての考察
どんな顔をするだろう。青君は頬を真っ赤にして、目をキラキラさせて、ストームのライブを楽しみにしてくれるだろうか。ライブの開催は四月だから、それまでにふたりでもっと曲聴き込んだりとかして。
大喜び、するかな、なんて想像しては三月に発売されるチケットが待ち遠しい。
「なぁ、充」
「んー?」
昼飯を食べ終わった頃にふらっとデザートを持ってきてくれる青君を待ちながら、机でパンを食べていた。バターたっぷりのパンは前からすごく気に入ってリピートしまくってたのに、最近少し味気なく感じてしまう。
青君の持ってきてくれるお菓子の味に慣れてしまったせいかもしれない。
「お前って、深見と仲良かったっけ?」
「え?」
それは元っていうか、幼馴染で、最近、その仲が復活したっていうか。
「なんか、最近ラブラブじゃん」
「はい?」
そう説明しようと思ったのより早く、益田がそんなことを言った。ニヤニヤしながら、そんなバカみたいなことを。
「だって、毎日、深見、熱心に通ってんじゃん。F組からうちのA組のまでさ。彼氏彼女でしょ。ラブラブでしょ」
「は?」
彼氏彼女って、何言ってんだ。
「距離、ちっかああああい! つか、あれは彼氏彼女の距離だろ」
「だから、何がだよ」
「イヤホン」
はんぶんこ。
イヤホンを片耳ずつにつけて同じ曲を聴く、なんて、彼氏彼女じゃなくちゃしないだろって、益田が難しい顔をする。
「は? そんなの」
「俺とそんなことしないだろ」
「!」
しない。そう思った。俺がストームの曲を益田に紹介したいとしたら、普通にイヤホンを両方とも渡すだろう。だって、俺はもうその曲を知っているんだから、一緒に聴かなくてもいいはず。
俺と益田は友達。そして、イヤホンはんぶんこはしない。でも、深見とはする。つまりは友達以上ってことで、彼氏彼女が確定。あのバレンタインのチョコだって、「友チョコ」って言い訳して、本当は別の意味を込めたチョコなんじゃないのぉ? とか、お昼のワイドショーかよってくらい、変なことを想像して、勘ぐって、おかしなことを言っている。
「益田、お前、何言ってんの? そんなわけないじゃん。何、それ」
「照れちゃってぇ」
なんだよ、それ、考えすぎて、っていうか妄想激しすぎだろ。
「バカだろ。益田」
もう昼休みで、皆がわいわい言いながら飯を食べている真っ最中で教室は賑やかだったけど、それでも俺がいきなり立ち上がったせいで椅子が鳴らした雑多な音は目立っていた。
「そんなわけないだろ」
「や、そんなにムキにならなくても」
「ただの幼馴染だよ」
「え?」
もう生まれた時からずっと一緒にいて、同じ商店街の、同じ通りに店がある、ただの、普通の幼馴染だ。益田が勘ぐるようなことなんてひとつもない。
「幼馴染? 今まで一回も話してるとこ見たことねぇけど?」
そう。益田は知らなかったし、いきなり急激に仲良くなった、クラスも違う、教室もかけ離れている。部活も違えば、友達も全然違う。そんな共通点がひとつも見当たらない俺らの急接近に疑問を持っただけのことなのに。
「変なことを言うなよ」
なのに、なんでか益田の言った言葉がすごくイヤだと思った。まるで、土足で踏み荒らされたような感じがして、正直、腹が立った。
「俺、別のところで食べる」
「え、ちょ、充!」
そういうことを言うの、やめろよ。だって、青君は。
「え? みっちゃん?」
「!」
青君は俺の大事な――
「もう食べ終わったの? 飯食べ終わるの早くない? 俺」
まだ食べ始めたばかりの時間、いつもはもう少し経ってから、ひょこっとうちのクラスを覗き込んでいるのに、今日はかなり早いタイミングではるか遠くの教室からやって来きた青君がお弁当箱を持って笑っていた。
「作ったんだ。一緒に食べようと思って」
「っ」
「え? みっちゃん? な、なに?」
「別の場所で食べよう」
なんなんだよ。仲が良いからって、冗談半分のつもりなのかもしれなくても、なんだよ冷やかすとかさ。
益田がバカなのはわかってたけど、本当にバカすぎて、今は話しもしたくないから、教室じゃなくて別の場所で食べたい。
「いいけど、いいの?」
いいよ。バカな益田なんてほっておけばいい。
「行こう」
行こう、なんて言ったものの、まだギリギリ二月の学校じゃ屋上は寒くてダメ、中庭も無理、結局は場所を見つけられず、青君が使っている調理室で昼食になった。部長が青君だからこその特権ってやつだ。
調理室には日がいっぱいに差し込んでいて、電気をつける必要がないくらいだった。そこでふたりしてテーブルを背もたれ代わりに丸椅子に座って、窓の外を並んで眺めている。
「へぇ、イヤホン半分って、しないの?」
その日差しはもちろん青君にも降り注いでいて、キャラメル色の髪がもっと明るい色に輝いている。影がつくと、余計に目鼻立ちが際立って、カッコいい顔をしてるんだなぁって浮き彫りになった気がした。
「知らない。あいつはしないんだろ」
なんで怒ってたのか、なんで教室から飛び出してきたのか、ふたりっきりの調理室で思いっきりぶっちゃけると、青君の穏やかな笑い声が柔らかく響く。
ただイヤホンを半分にしたくらいで考えすぎだっつうの。
「益田とみっちゃん、も、仲良いよね」
「部活もクラスも同じだからってだけだよ」
「俺とみっちゃんも、仲良い?」
ひとつ吐息を挟んでから、そんなことを訊く青君の横顔は半分が日に照らされて、光そのものを纏っているみたいに見える。
「幼馴染、だから?」
「え……ぁ、うん」
「……そっか」
ふたりだけの教室では大きな声で話す必要がないからなのか、低くなった声で青君は静かに、俺にしか聞き取れないほどポツリと呟くからよく聞こえなかった。
「みっちゃんって好きな人、いる?」
とても静かな声だった。
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