唇が触れて、少し啄ばまれただけで、胸のところがきゅっと締め付けられる。 「みつ……」 　青の声を聞いただけで、喉の奥がミルクティーでも飲んだみたいな甘さを感じる。唇が離れる瞬間、すごく、もっと、キスしたくなって、追いかけそうになった。だって、青のキスは甘くて、美味しい。 　すごく、青のことが好きだ。 　一回どころか、もっとたくさんキスするんだと思って待ってたのに、いっこうに続きがなくて、焦れて、目を開けた。 「あ、青？」 　そしたら、青が真っ直ぐにこっちを見てて、目が合って、お腹のあたりがじんわりと熱くなった。 「ど、うかした？　なんか、俺、変だった？」 　キスの仕方が変だっただろうか。慣れてないから、いつでも青とする時、緊張してて、もっと舌とか絡まる濃いやつだと、頭の中パニックだったりするから、何か失敗をしでかしたのかと。 「なんか、大丈夫かなって」 「えっ！」 　やっぱり、なんか、変だった？ 「俺、セーブしてたから」 　セーブ？　って、何を？ 「大丈夫かなって」 「？」 「えっとね」 　青が言いにくそうに、視線を横にずらして、少しだけ天井を見上げながら考えて、また俺を見た。真っ直ぐ、俺だけを。 「みつのこと、すごく好きだったんだ」 「うん」 　それは知ってる。この前、告白してもらった時に、それを聞いて、驚いて、たまらなく嬉しかったんだ。あの日見たものは全部一生忘れないって思うくらい、景色も風の感じも、青のことも宝物だ。 「今までは、ほら、片想いだから、どうにもならないじゃん？」 「うん」 「でも、両想いになったら、なんかもう止まらなくて。益田は友だちって言われてもヤキモチ妬くレベルでさ」 「俺、益田となんて、想像しただけで、げっそりするんだけど？」 　この甘い雰囲気の中で、まさかの益田バスケ少年の名前を出されて、うげ、って、申し訳ないけど本気でしてしまった。 　青はそんな俺を見て、益田かわいそうって言いながら、笑って、頷いた。 「それでも、やっぱり気になっちゃって、みつを独り占めしたくて止まらなくてさ。でも、俺たち、男同士じゃん？　俺が彼女だったら、益田にそんなこと思わないで、小坂さんとか島さんとかそのあたりだけ気にしてた」 　でも、男同士だから、ただ男友達相手にも独り占めしたいって願望が内側で暴れてしまう。どこまでヤキモチをやいていいのかがわからない。 　そう言われて、思い出したんだ。 　中原さんに会う度に青は普通の顔をしていた。最初会った時だけじゃなくて、映画館で少しだけふたりで話してるのを見ても、「ふーん」って顔をしていた。 「だから、男相手でヤキモチ禁止って徹底してた。すっごい我慢してたんだ」 「……」 　俺は「ふーん」ってしてるのを見て、青が持っていてくれる好きは、俺が持っているやつと同じじゃないんだと思った。じっとしてられないほどに熱くて、感情があっちこっちって振り回されるような「好き」とは違うんだと、そう思ってた。 「そ、なんだ……」 「うん。本当は、かなり色々あれだったから」 「……いいのに」 「え？」 　我慢しなくていいのに、嬉しかったのに、って、俯きながらぼそっと呟いたら、息もできないくらい強く抱き締められて、耳にキスされた。 「本当に、我慢、しないからね」 　キスされた耳にそう囁かれて、お腹の底にあった熱がもっと大きく膨らんで、温度もあがって、クラクラした。倒れたら大変だから、一生懸命青の背中に腕を回してしがみついて、また小さく、でも、たしかに頷いた。 「ン、ンふっ……ん、ぁ、く」 　ベッドの上に向かい合わせに座ってするキスは初めてで、どう座ればいいのかわからない。しかも浴衣だから、余計にわからなくて、正座も変だし、かといって胡坐はさすがにないだろうし。じゃあ、女の人みたいに横座り？　もおかしい気がして、結局―― 「あ、ふっ……青っ」 　三角座りになった。脚を折りたたんで胸にくっつけて、ぎゅっとできるだけ小さくなれば青のそばにいけるからって。青は片足だけベッドの上で、もう片方は床へと下ろしてる。手をついて身体を捻るような感じ。 「みつ？　どうかした？」 　捻るような体勢になってるせいで、キスをするために首を伸ばしていて、その骨っぽく、筋肉質って感じの硬そうな首筋のラインがカッコいい。ドキドキする。当たり前のことなんだけど、なんかさ、男の人っぽくて目のやり場に困る。 「あのさ、みつ、あんま、そんなに見つめられるとさ。目のやり場に困るんだけど」 　胸のうちで溢してた苦情がそのまま青の声で聞こえてきて、びっくりした。目を丸くして、三角座りをする俺を、真似るように青も目を丸くして見つめてる。 「俺も困ってる」 「みつも？」 「うん」 　だから、目を閉じてキスしたらいいんじゃん？　そしたら、ほら、目のやり場に困らない。そう思って、今度は俺から、ちょっとベッドの上で膝を抱えて座るこの大勢じゃ不安定なんだけど、少し前に乗り出してキスをした。触れて、離れずに、舌で唇を舐めてみたりして。 「だって、ずっと、青とこういうことするの、想像してたから」 「……」 「ひ、引いたか？」 　さすがに、これは引く？　でも、あれ、男だし、青も男だけど、同じ裸だけどちょっと違うせいか想像するだけでもドキドキするんだ。青の裸だから、男とかじゃなくて、好きな人の裸だからで。つまりは、好きだから、そういうことをしたいって思うわけで。 「引くわけ、ないじゃん」 「！」 　噛み付かれたのかと。 「ん、ふぁっ……ンんんっ、ぁ……青っ」 　そう思うくらい激しいキス。大きく開けた口につられるように唇を開くと、舌が生き物みたいに口の中をまさぐって、唾液が一瞬で溢れる。溢れそうって思うと、角度を変えて、音がするくらいに舌同士が絡まり合って、喉の奥まで熱くなるような濃くて、甘くて、蕩けるキス。 「引くわけ、ないよ」 「ぁ、お」 　熱があるのかもって思うくらい、身体の芯がポカポカを通り越して、カァッ！　って熱くなった。 　ほら、額と額をくっつけたりするから、本当に熱が出てきた気がする。 「だって、俺こそ、みつと、こういうことしたいって、ずっと、ずーっと、思ってた」 　でも、青の額も俺と同じくらいに熱いから、一緒に発熱ならいっかって、そう思ったんだ。