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第45話 気持ちイイ掌

「んっ、ひゃっ」  首筋を吸われて、思わず肩を竦めるけれど、そこには青がいて、その唇を止められない。くすぐったいのに混ざって、違う何かがぞわぞわって俺を刺激する。舌がさ、やらしい音を立てるのがすぐそこで聞こえる。青に首んとこを吸われる度に、キスの濡れた音がして、耳から蕩けてしまいそう。 「ふゃ、青っ」 「……くすぐったい?」  頷いて、そのまま俯いた。 「みつ? 顔、上げて、こっち見てて」 「え? そ、そんな、っ」  無理難題なんですが。だって、首筋を吸われたの初めてだし、それに、キスもいつもするディープキスよりもなんかやらしいっていうかさ。座ってるからわからないけれど、これ、立っていられたかどうか。腰のところがザワザワする。痺れてて、変な感じがする。 「みつが気持ちイイか不安なんだ。俺、初めてだから、下手くそじゃない?」 「!」  見上げたら、一生懸命に俺を覗きこんでいる青がいた。そっか、俺がうなじのキスに戸惑うみたいに、青だって、戸惑うんだ。 「青が下手かどうかなんて、わかんない」 「みつ」 「だって、青としかこんなことしたことないし」  ずっとしたかった。でも、初めてでさ、お互いにここまでどうしたら、もっとすんなり辿り着けるのかもわからないし、まず、相手も同じ気持ちかどうかもわからなかったくらいに手探り。男同士だから、ヤキモチの範囲からして謎でさ。 「青とだから、こういうことしたいんだし。き、もち、イイから、変な声出たんだし」 「……」 「青ってさ、カッコよくてたまに可愛くて、モテるのわかるし、あと、男なんだけど綺麗なんだ。見惚れちゃうくらいに。でも、俺は普通じゃん? 青はキスする時にもカッコいいけど、俺は裏返った声とか、ちょっと色っぽさとかなくて、っていうか、女の子みたいには」  あ、なんだろ。緊張してるせいか、言葉が止まらない。気を紛らわせたいのかな。自分でも妙にペラペラ話してるのがわかる。 「今の、ダメだよ。みつ」 「へ?」  男っぽい声だった。 「俺とだからってこういうことしたいんだってとこに、すっごいツボ押されて失神するかと思ったけど」  え、それは困る。失神されたら、俺はどうすんの? 恥ずかしいし、なんかパニック寸前だけど、キスに蕩けて痺れるくらいになっちゃってる俺はどうしたらいいんですか? 「女の子とか、知らない」 「……青」  端に座っていた青が乗り上げるように前へ、俺へと近づくと、ベッドがギシって音を立てた。睫毛が触れそうなほどの距離からじっと見つめられたら、チョコレート色の瞳の中に俺を発見した。 「みつがいい。みつが好きなんだ」  甘くて、一口食べると、病み付きになるショコラみたいな綺麗な瞳。 「みつと……したい」  更にベッドに乗り上げた青。ずっと三角座りをしていて、膝を抱えるようにしていた俺の手を取って、ぐいって。 「……ぁ」  すごく熱かったんだ。ハーフパンツ越しでもわかるくらいに硬くて、掌にじんわりとその熱が伝わってくる。 「あとね、俺、綺麗じゃないよ。男だよ。いろんな意味で」  思ってたんだ。青は優しくて柔らかくて、カッコいいのに可愛くて、俺は不釣合い。もったいない。でも、それ以上に、青とそういうことをしたいって思うのすら、ダメなんじゃないかって。想像しちゃいけないことみたいな。 「みつの中で俺ってどんななの」 「ど、どんなって」 「普通に興奮します」 「はい」 「普通に好きな人のことを想像したら、勃ちます」 「は、へ?」 「普通に、みつで抜きます」  ぶっちゃけ、そうなの? って、安心してしまった。だって、だってさ、お菓子大好きで、部屋に、ほら、あんなプロ仕様のレシピ本もあって、クッキング部でさ。いっつもあんな朗らかに笑ってたりしたら、女子よりも甘くて可愛い生き物みたいに思えて来ても、仕方がないと思うんだ。 「お、俺で?」 「抜きます」  そ、そうですか。 「みつは? みつも、俺で抜いた?」 「ひょえっ? あ、ちょ、ァ、青っ? 青っ! んひゃあああ、ちょ、青、どこ触って」 「みつが俺みたいにちゃんと興奮してるってわかるトコ」  俺が、チョコレートみたいに溶けちゃいそうだ。何、この変な声。自分のじゃないみたいだ。 「恥ずかしくないよ」  そう言われたって。きゅっと足を閉じてみても、浴衣じゃ、スカートと同じだ。すぐに侵入されてしまう。 「あっ!」  青のみたいにしっかりと熱を持ったそこをひと撫でされると、背中にゾワリと興奮が広がった。仰け反るほど感じてしまう。  もっともっとベッドに乗り上げて、覆い被さるようになった青がまた首筋を強く吸ったかと思ったら、今度は歯を立てて噛み付かれて、ビクンって、本当に自分でも驚くくらいに跳ねて反応した。 「んあっ……」  歯を立てられたところを舌先で舐められると気持ちイイ。唇にするキスも気持ちイイ。頬、顎、鎖骨、浴衣が崩れてむき出しになった肩を齧られても。そして、浴衣の合わせ目をかき分けて、中に忍び込んだ手に撫でられても。 「ひゃあああ!」  ホント、変な声。ひっくり返った裏声みたいな。 「あっ青!」  自分の声にも、青のキス、舌にもパニックだ。 「あ、ンっ」  あっちこっちって色んな場所に触れるキス。それが落ち着いた先。 「や、なんか、変っ」  青のキスが胸にいっぱいされて、声が一段と変なのになって、俺はたまらず口元を手の甲で覆い隠した。それでも声が止まらない。初めて触られて、今まで意識したことなんて一度もなかったそこがむずむずする。ただの乳首なのに、くすぐったいのと、あと。 「あっ、ン……っ」  指で摘まれると困る。舌で突かれても、とんがってしまった先端を歯でカリカリってされても、気にしたことのなかった場所に、知らない感覚が滲んで、広がって、お腹の底がやたらと熱くなってしまう。 「やぁ……」  声が、なんか、甘ったるい。青の指に、唇に、舌に、そこが敏感に反応してる。青の舌が俺の乳首を舐めるところを見ただけで、下腹部がジンってした。 「あぁぁ……ン」  吸われると、もっとツンってして、舌で押し潰されても、硬くなって、青の舌の上を押し返す。 「あ、お」  名前を呼んだら上体を起こして、笑顔でキスしてくれた。角度を変えて近づく青の唇がやたらと濡れて光ってるのは、俺の乳首をいじってたせいなんだ。そう思いながら深く口付けて、乳首を舐めていた舌に自分から舌を絡ませて、胸んとこを濡らした唾液を交換し合って。 「ん、ふっ」  股関を撫でられて、乳首を舐められた時に感じた下腹部のジリジリしたものが、もっと強くなる。これって、きっと、快感っていうんだ。ひとりでするのとじゃ全然違う快感。 「ン、青、気持ちイイ」 「みつ」 「青の、手、気持ちイイよ」  すごく、すごくイイ。だから、そんな覗き込んで確かめなくても平気だよ。 「そ、うぞうしてた、青の手より、もっと、気持ち、イイ……です」  子どもの頃はぷにぷにしてて柔らかかった手が、今は骨っぽくて、そうたいして大きさは変わらないはずなのに大きく感じられる手になった。  その手に、撫でてもらって。 「あっ、青っ」 「みつの、濡れてる? ここ」 「ァっ、だって、ァ!」  言わないでよ。めちゃくちゃ恥ずかしいんだから。だって、気持ちイイ。下着の上からだった掌の感触でも、充分、刺激的だった。初めて、自分以外の人に触れられるのは全然違ってた。こんななんてさ。それなのに、下着をぐいっと引っ張られて直に触れられたら、もう。 「あっあぁぁ! ん、あっ」 「やっぱり濡れてる、ほら」  浴衣の中からやらしい音がした。くちゅって、濡れた音。  握られて、上下にゆっくり擦られる。青の手に包みこまれるとたまらなくなって、先のとこから溢れる透明な汁。それを青の指先が丸みのある先端にくるっと塗りつけて。 「あ、青っ、ァ、やっ」  きつく、根元から、先端を扱かれても、くびれのとこだけを擦られても、俺は―― 「青、のも」 「みつ」  想像してたよりも熱かった。青の真似をするように服の上からじゃなくて、中に侵入した手。ハーフパンツの中はすごい熱がこもってて暑そうだから、グイって、引き下ろした。そして、初めて見る、青の、それ。  直に触れるとすごい熱を持っていた。掌で包み込んであげると。青が苦しそうに表情を歪めてた。こんな顔するんだなってじっと見つめてると、ちょっと居心地悪そうに笑って、みつの手だ、なんて呟く。 「あ、青っ、ンっんくっ……ン」  溢れた唾液を飲み干しながら、青のを握り締めて、扱いて。青の手は俺のを扱いてて。それだけでもたまらないのに。 「青っ、あ、あっ」  さっき濡らされた乳首を抓られて、コリコリしてるのが青の指先のせいでよくわかってしまう。 「ン、ァお、青の、熱い」 「っ、みつっ」  初めて触れる青の熱。 「みつっ」  こんななんだ。 「あ、も、青、俺っ」 「っ」  想像していた青の掌よりも、もっと、もっと気持ち良かった。 「っ青」 「好きだよ」 「んっ、ンンン!」  想像してたよりも熱かった。すごく濡れて、間近で見つめる青の表情はもっと男っぽくて、全然違ってた。 「ン、青……」  もっと、ずっと、気持ちイイ掌だった。

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