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第46話 気持ちイイ指先

 どうしよう。青の手の中でイッてしまった。 「みつ……みつの手の中でイクの、ものすごく気持ち良かった」  それはよかったです。俺も、青の手がとても、ものすごく気持ち良かった。自分の手でするのなんて、比べものにならないくらい気持ち良くて。 「ごっ、ごめっ」  イッた直後でふわふわしている中、青の手を見たら、そりゃ俺の吐き出したものがあるわけで。慌てて、青のベッドの脇にあったティッシュで拭った。でも、一枚じゃ足りなくて、もう一枚って手を伸ばして。 「なんで?」 「んぎゃあああ! ちょっ! ちょっ」  ティッシュ一枚じゃ拭いきれないくらい出しちゃったことにも、それを青の舌がペロッと舐めそうなことにも、慌てて、変な叫び声出して、飛びかかってしまった。その拍子にぬぎかけで乱れた浴衣から肩が剥き出しになって、ものすごくだらしのない格好になる。 「みつ、色っぽい……」 「何、言っ……ン、んふっ……ン、く……」  飛びかかったのは俺なのに、齧り付くようにキスされて、そのまま押し倒された。イったばかりだから? よくわからない。キスの色々を知らない俺には、回数を重ねれば重ねるだけ、キスが気持ち良くなる理由がわからない。  青の舌にまさぐられるとたまらなくなって、ほら、またお腹の底んところが熱くなって。  ティッシュを取る音がして、薄っすら目を開ければ、青がその取ったティッシュで手際良く、俺の掌についた自分のを拭ってた。大事そうに指の間まで丁寧に。 「ごめんね。みつ」 「いいのに、そんな拭き取らなくても」 「でも、やじゃない?」 「やなわけあるか」  好きな人のなのに、嫌なわけない。汚いものじゃないんだから、謝ることもない。むしろ謝られるほうが……イヤ……だ、って、今、気がついた。 「うん。だから、みつも謝らないでよ。汚くないし」 「青」 「俺の手で気持ち良くなってもらえて嬉しいし、それに」  とても、とっても気持ち良かった。その欠片を青の舌がぺろりと舐めた。 「……みつの味」 「!」  低く、そんなことを呟かれて、またお腹の底んところが熱くなる。なんか、そんなふうに言われると―― 「でも、まだ、終わりじゃないんだ」 「……」  知ってる。知ってるけど、少しドキドキした。イヤとかじゃない。でも、やっぱ緊張する。それに、少し不安なんだ。  青はカッコいい。いつもは可愛いのに、今日の青はずっとドキドキするほどカッコよくてさ。キスだけでもこんなに蕩けるのに。 「みつ、しても、いい?」  ちゃんと、しちゃったら、俺はどうなるんだろうって。青がカッコ良すぎて、気持ち良すぎて、俺は溶けてしまうんじゃないだろうかって、割と本気で心配してる。 「い、いいよ」  コクン、と頷く。でも、この距離で、誰もいない、花火の音しかしない部屋じゃ、俺の不安に青が気がつかないわけがない。 「怖かったら」 「怖くない。俺もしたいっ」  不安だけじゃない、全部、ドキドキも、気持ちも、全部伝わるようにって、急いで首を伸ばして、キスをひとつした。 「したい……ってば」 「みつ」  キスで精一杯伝えたら、青が嬉しそうにクシャッと笑って、唇にただ触れるだけのキスをひとつした。そして、ベッドを離れる。自分の上に覆い被さるものがなくなった途端、乱れて半裸状態の浴衣が気恥ずかしくなって、前の部分をぎゅっと押さえながら、横向きになった。そして、ベッドを降りた青を目で追いかける。Tシャツを脱いで床にポトリと落とし、自分の机へ歩く後ろ姿を眺めてた。  水泳の授業の時も思った。  クッキング部なのにどうしてあんなに身体がカッコいいんだ。背中すら見てるとドキドキする。ずり下げて、腰履き状態のハーフパンツすらカッコいい。  何かを引き出しから取り出した青が戻ってくると、今度は割れた腹筋が、薄暗い中で僅かな明かりに照らされて、それを見てたらお腹の底のところがきゅっと締め付けられる感じ。 「青、何? それ」 「ローション。男同士でする時には必要だから」 「え」 「いつか、そういうこと、を、さ。みつとしたくて、準備してたんだ」  かぁ、って漫画みたいに顔が熱くなった。なんか全部が照れ臭かった。青の裸にも、男同士で、そういうことをするってことも、そして、俺よりももっと、ちゃんと現実的に考えていてくれた青にも。 「下手かもしれないけど、みつのこと、大事にするから」 「!」  ベッドが青の体重に少しだけ傾いた。そして、なんか急に熱く感じた。青の体温がすぐそこにあるからかもしれない。これからすることに俺の身体が熱くなったのかもしれない。 「一緒に気持ち良くなりたいんだ」  ちゅって、挨拶みたいなキス。それが唇、頬、首筋、鎖骨って降りていく。キスのほうを気にしててって言うように、舌先で肌の上をいっぱい刺激されて、気持ち良さがドンドン広がっていくのに。 「あっ……青っ」  とろみをまとった指先がそこに触れたら、青のキスに夢中になってたはずの身体が一瞬で力を込めた。 「あっ!」  そんなところ触られたことがないから、一瞬で不安が膨らむ。知ってたけど、男同士でする時にはそこを使うってわかってたけど、でも、だって。 「っ」 「痛い?」   小さく首を横に振った。痛くはない。でも違和感がすごい。ローションのおかげで指が入ってくることを拒んだりはしなかったけど。 「きつい、みつ、力を抜いて」  無理だよ。だって、そこんとこ、たった指一本なのに苦しい。こんなにいっぱいいっぱいなのに、青のなんて、無理だ。 「みつ」  違和感に全身が戸惑ってる。濡れた音がするけれど、俺の声はさっきまでヘンテコで甘ったるかったのに、今は息をするのすら大変で、これじゃ、こんなんじゃ、青と―― 「青っ、あっ」 「うん」  優しい声が返事をしてくれて、ちゅって、挨拶みたいなキスされた。 「痛くなんてしないから、俺」  そう言ってくれた唇が今度は深く重なって、舌が俺の口の中を丁寧に舐めて、くすぐってくれる。青の指も、この舌と一緒だ。俺の中にゆっくり触れて、ローションで濡らして、柔らかくなるようにって、焦らず丁寧に愛撫してくれる。 「あ、おっ」 「うん」  返事をしてくれた、たったそれだけで。 「あっ、ぁ……」 「みつの中、すごい、熱い」  孔んところが青の指をちゃんと迎えていた。 「青」 「うん。みつ、俺はここにいるから、ね?」 「ひゃああっ!」 「わかる?」  声が変な感じにまたなった。指が俺の中をグリって掻き混ぜて、その存在感をしっかり身体の中に伝えてくれるから。あ、なんか、すごい。今、俺の中、違和感がちゃんと存在感に変わってる。青の指をちゃんと受け入れてる。すごく、嬉しい。 「いるからね」 「? ……ひゃああああ! あ、青っ、青! そ、そんなことっ」  なんだろう。覆い被さるようにいた青の体温が消えて、何? って困惑する俺に、声で、指でここにいるからって教えてくれた青が視界から消えたと思ったら、さっき掌で扱いてもらった、俺のを口で今度は包み込まれた。 「やっ! 青、ダメ、だっ」  青にフェラ、されてる。 「あぁぁぁぁ、ン」  口の中に含まれて、舌で舐められて、どうしたらいいのかわからないくらいに気持ちいい。俺の太腿を押し拡げる、力強い指先にすら快感が滲んで、腰が勝手にビクンって跳ねた。 「あぁぁっ!」  背中を反らして喘ぐと、青の舌が先の口んとこをチロチロ舐めて、何かを吸い上げる。やだ、気持ち良すぎてどうにかなりそう。 「みつの中に俺の指、今、二本あるよ」  そんなこと、先端にキスしながら言うなよ。 「先んとこ、好き?」 「し、知らないっ」 「今、指締め付けた」  それこそ知らない。わかんない。青の指先を内側で感じて、前をフェラされて、脚を広げて、恥ずかしくて仕方ないはずなのに。快感が何より強く俺の中に広がって、わかんない。ただ、ただ、青のくれる全部が、気持ちいい。おかしくなっちゃいそうだ。 「みつ」 「へ? っ! ひゃああああっ! な、何っ、何、そこっ」 「痛い?」  違和感でも、存在感でもない。 「や、何、なに、それっ」 「みつ……っ」  一気に身体がおかしくなった。俺の内側になるコリコリしたとこを指先で何度も突かれて、擦られて、フェラの刺激と重なって、俺の内側で絡まり合って、どれがどの快感なのかわけがわかんない。 「んやぁぁっ」  これ、どうしよう。快感だ。俺、今、青の指をお尻んとこで気持ちいいって感じてる。 「よかった、みつの中、うねってる」 「知らなっ、あぁっ、ンンンっ、やだっ、そこっ」  クチュクチュ音がした。俺の中が青の指に反応してる。絡みついて、締め付けて、まるで自分からその指先の存在感をもっと感じたいってねだってるみたい。もうそれが快感に変わってるから。 「あああっ、ン、ん、青っ、青っ」 「……な、に?」  名前を何度も呼んだら、やっと、フェラを止めて、顔を上げてくれた。その額には薄っすらと汗が滲んでるのが、暗い部屋の中でもよく見えた。 「青、も、平気」 「みつ、最初だから、ちゃんと、しないと」 「ううん。平気。っていうか、もう」  青、の、ことが。 「もう、平気。だから」  欲しいんだ。指じゃなくて、ちゃんと、欲しい。 「来て……」

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