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第52話 天使なふたり
ふと、目が覚めた。
昨日、夜、遅くまで起きてたのに、朝、アラームなしでスッと起きられた。
自分の部屋じゃない。ベッドの脇にある窓を昨日全開にして、カーテンも閉めずに、ふたりで狭いベッドにぎゅうぎゅうに並んで星空を見上げながら寝たんだ。
ただ話してるだけなのにドキドキしてた。いつもみたいに普通の会話だったのに、なんか、普通の言葉にも「好き」っていう言葉が染み込んでいる気がした。
でも、あんま星は見てなかったかもしれない。
青は星を見上げる俺をずっと見つめてて、俺だって青のこと見つめてたいんですけどって、思って、思いっきり至近距離で横向きになったんだ。いきなりバチッて音がしそうなくらい視線がぶつかって、青が慌ててた。
――ちょ! いきなり、どアップとか心臓爆発するからやめてよ!
なんて言って慌てる青がたまらなく可愛かった。あんなにカッコいいのに。エッチ、してる時、めちゃくちゃ男らしくて、力強くて、カッコいいくせに、可愛くて、なんか、もうそれがズルいから、視線攻撃をしかけて困らせてみた。本当に慌てて困ってた。でも、エッチの時はこっちが色っぽくてドキドキさせられっぱなしだったんだ。
――みつ、好きだよ。
昨日、俺は、青と、その。
――みつ、声、聞かせて?
――や、あぁぁっ! ン、ぁ……青、そこっ、ぁっ!
――みつ。
しちゃったんだ。
「んー……み……っぅ」
青、なんの夢見てるんだろう。なんか、めちゃくちゃニヤニヤしてる。しかも、俺の名前呼んでる。
「……あお」
まるで眠り姫みたいだ。夏の日差しは朝でもすごく強くて、当たったところがキラキラ輝いて見える。ちょうど全開にしている窓からの光が青の髪を照らしてた。キャラメル色の髪はとても柔らかくて、昨日も、しながら、ぎゅって頭抱きかかえた時とか、指先に触れる質感がすごく気持ちよかった。少しクセのある髪だから、セットしてない今はあっちこっちに跳ねていて、その毛先に光が当たって綺麗だった。薄い茶色が透けてるみたいに見えて、ドキドキするほど綺麗で、何この人、みたいな感じ。
こんなカッコいい人が俺の彼氏で、俺のことを好きとか本当ですか? って。
信じられなくて、もしかして夢なんじゃないかって思えてきたから、そっと髪に触れた。よかった。ちゃんと触れる。って、当たり前だよな。
「……み、つ」
昨日、感じたし。青を、俺の中で、ちゃんと。
「おはよう。青」
昨日の続きみたいに、俺は青の隣にぴったりくっついて、チョコレート色の瞳の真正面に陣取ってる。
いつも青は、俺を見て、少し瞳を大きくしてからキラキラ輝かせて。そして、頬を赤くする。
「……青? な、何? なんか、俺、変?」
それを見ると嬉しくなるんだ。でも、今、あまりにもじっと見つめられて、寝起きだし、なんか変だった? って、急に不安に襲われた。寝癖があるのかも、って思って、髪を掌で撫で付けてとりあえず直そうと手を伸ばしたら。
「あ、青?」
その手をすごく強く握り締められて、きつく掴まれて、心臓が跳ねた。
「……天使」
「……へ?」
「天使かと思った。みつがあまりにも綺麗で」
「は? 何、言って」
それはこっちだよ。さっき、寝ている青の髪に太陽の日が降り注いで、明るい色をした髪がもっと輝いて艶めいていて、ホント、なんか外国人っていうか、宇宙人みたいにカッコいいっていうか、天使っていうか。
「だって、日が当たって、キラキラしてて綺麗すぎるんだもん。でも、よかった。みつだ」
「んひゃあああ!」
「ちゃんと、昨日、俺がくっつけたキスマークがついてる」
青の唇が触れたのは俺の鎖骨のところ。そこに「ちゅ」ってキスの音と一緒に、少しだけチリッとした、抓られた時みたいな痛みを感じて、声を上げてしまった。
「昨日のエッチな、みつだ」
「んな! なっ、なっ」
エッチなって、エッチなって、それは、青のほうだろ。青のほうが断然エッチだった。絶対に。カッコいいし、青は自分の顔、その、エッチなことをしてる時にどんな顔をしてるか見えないからわからないんだろうけど、すごかったんだからな。すっごく色っぽくて、ドキドキしたんだ。
眉なんてひそめたりして。顔しかめっ面になんてしちゃったりして。少し苦しそうな吐息とか出しちゃったりして。
なんか……気持ち良さそうな顔、してたり、とか。
反論したいけど、心臓が昨日のことを思い出して、飛び跳ねて、今、目の前にいる青のことを好きすぎて、笑ってくれることに大喜びして、忙しくて、言葉が出てきてくれない。こういうのを胸がいっぱいになる、っていうんだろうな。
「ああああ! みつっ!」
「なっ! 何! なんだよ!」
いきなり大きな声を出す青にびっくりして、俺も大きな声で叫んだら、そのまま組み敷かれた。
「あ、青?」
しかもうつ伏せで。腕をついている青の下で丸裸のまま、背中丸出しで、な、なんか、これ、めちゃくちゃ恥ずかしい。だって、これじゃ、昨日、いっぱいしたとこ、お尻が丸出しだし。
「……よかった。羽、生えてない」
「は?」
「あまりにみつが綺麗で可愛いから、俺は昨日天使みつとエッチしたのかと」
「は? んひゃっ!」
背中、肩甲骨のところにキスされた。背後で青の唇の音がして、背中の一箇所に世界一柔らかくて美味しそうな感触がした。
「天使なみつとエッチした」
し、知りません。天使な、ってどんだけ、青は俺のこと。
「大好きだよ、みつ」
「ぁンっ」
今度は背中にキスされて、驚くよりも気持ち良さそうな声が零れてしまった。
「みつ……好き」
「ぁ、ちょ、青っ」
そんな、いっぱい、背中にキスするなよ。昨日もそうだった。青の唇が触れると、今までは何もなかった、感じたことなんてなかった場所が全部気持ち良くなる。男なのに、そんなとこいらないくらいい思ってたのに、乳首、すごく――
「みつ」
「や、ぁっ……あ」
「あああああおおおおおお! みっちゃん、いるー?」
「「!」」
声にならないほど驚いた。俺も青も、音もなく飛び上がって、そっから、「ちょ」とか「へ」とか「おわっ」とか小さく絶叫しながら、慌てて、自分の服を探して。青はいいよ、服あるから。俺どうすんの? ねぇ、これ、浴衣って、着れるけど、今、ここでこれ着るのはどんな超人でも難しくない? なんて無言でジタバタして、何度も狭いベッドの上で鉢合わせっていうか衝突した。
「いるんだったらー! 朝ご飯あるから、適当にふたりで済ませてー! お店のほうにいるからぁ!」
「わかったあああ!」
「おじゃ、お邪魔して、まっ」
声ひっくり返った。慌てまくり。とりあえず部屋の鍵はしてあるけど、それでも、慌てて掻き集めた服をとにかく、着た。
「あ、みつ、前後、逆」
「へ? あ! え? だって、青は下、前後逆じゃない? 尻尾、あるけど?」
なんだろう。
「っぷ」
ふたりして急いで慌てて掻き集めた服を着たら、俺は上の前後を、青なんて、下のハーフパンツの前後を間違えてて、腰紐が尻尾みたいになってて、なんか、ふたりしておっちょこちょいしててさ。
「「あはははは」」
お互いに指差して、そして、可笑しくて大笑いしてた。初エッチの翌日は、なんか、すごく笑ってばっかだった。
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