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第60話 ふたりでしよう?

「みつ……」  すっごいドキドキした。  ネットの質問板とかで検索したら薬局に売ってるっていうけど、さすがにこの商店街にある小さなドラッグストアじゃ売ってないだろうし、売ってても買えないだろうし。大杉薬局のおばあちゃんにバレたら、もう大変なことになるし。  自転車で駅二つ分離れた大きな薬局に行って、破裂しそうなくらい、心臓バックバクにさせながら買った。  ローションとゴム。  自分の引き出しからそれを持って来て、青と俺の間に置いたら、抱き締められた。耳元で青の溜め息が聞こえた。 「え? こ、これで合ってる? 青が持ってたの売ってなかったから」  ふたりでするのに必要なものを、俺も用意しておきたかった。 「間違ってた?」 「なんか、すごく、感動しちゃった」 「え?」 「あと、嬉しい」  俺も嬉しかったから。青が俺とこういうことをするために準備をしていてくれたことが嬉しかったから。俺も同じことをしたかったんだ。 「買うのってけっこうドキドキした。青はどこの薬局で買ったんだ? 俺、自転車で」 「え? ネットで注文した」 「えええええ?」  その手があったことをすっかり忘れてて、青の腕の中で声をあげたら、青がびっくりした顔してた。でも、俺もびっくりした。現代の男子高校生なのに普通に自転車こいで薬局で買っちゃったよ。 「なんか、青とするのに準備しないとって、頭の中、そればっかで、ネット通販まで行かなかった。っていうか、どこで売ってるんだろうってネットで調べたくせに」  本当に頭からすっぽり抜けていた。 「ドキドキした?」 「ドキドキどこじゃないよ。すっごい緊張して、買い終わった瞬間ヘトヘトになったんだ」  ただ買っただけなのに。お米十キロ買ったわけでもない、青いビニール袋が大きすぎる小さな買い物だったけど、帰りの自転車は漕いでも漕いでも、どこかふわふわしてた。なんか、達成感とかすごかった。 「俺とするのに準備しないとって、思ってくれたんだ」 「うん」  青が嬉しそうに目を細めて、俺を抱き締めたまま触れるだけのキスをした。  通販、そっか、次からはそうしよう。次……この、掌に乗る小さなボトルが空になったら。これを使い終わったら、それはつまり、何度もするってことで。 「頭の中、そればっか、だったの?」 「う、ん」  青とこれからも、キスして抱き締め合って、するんだなぁって、ちょっとドキドキする。 「それ、って……どんなこと?」  尋ねられて、言葉で答えるのは恥ずかしかったから、キスをした。触れるだけのじゃなくて、甘いチョコレートが青の口の中に残ってないか、探るようなキス。舌を差し込んだらすぐに青の舌に捕まえられた。 「ん、ンっ……ふっ」  絡まり合って、唾液が立てる音が部屋の中に満ちていく。 「みつ」 「?」  青の唇が濡れてた。 「みつの部屋でしても、いい?」  俺の部屋で青とちょっとやらしいキスをして、抱きしめ合って、身体はやたらと熱くて。 「しなかったら怒る。そのために、俺、駅四つ分、自転車で頑張ったんだからな」  どう答えるのが一番いいのかなんてわからない。色っぽいことなんて言えないから、思ったままを口にした。でも、そんな俺を青は好きでいてくれると思うんだ。  だって、ほら、青がキスを、唇と、頬、鼻先っていくつもいくつもしながら、嬉しそうに笑ってる。 「あっ、お」  くちゅくちゅって、ローションの音が、俺の見えない場所から聞こえてくる。  青の部屋にはラグがないんだけど、俺の部屋にはあるから、その上にいた。青は上半身だけ裸になってあぐらをかいて座ってて、俺は全部脱いで、裸になって青の肩にしがみつきながら膝立ちになってる。 「みつ」 「あああっ! あ、青っ」 「ここ、好き?」  膝立ちになってしがみつく俺の腰を青の片手が支えてくれて、もう片方の手は、俺の中にローションを塗りつけて、ほぐしてた。ほぐされながら、青の目の前にある乳首を口の含まれて、これから受け入れるために柔らかくしている最中だっていうのに、キュンキュンと逆に指を締め付けてしまう。 「みつの乳首、コリコリしてる」 「バカっ、も、言わないで、いいっ」 「気持ちイイ?」  訊かなくてもわかってるくせに。ちゃんと青の舌の上で、俺の胸にくっついた小さな粒が硬くなってるのを感触で知ってるくせに。舌に舐められてツンと尖ったとこを吸われながら、指で広げて、中を押されるとビクンとしてしまう。その箇所を狙ったように攻められて、たまらなかった。 「もっ、声、出ちゃ、っン、んんんっ」  青の指にそこを押されると甘い声が我慢できなくなるから、キスで、青の唇で塞いでもらうんだけど。 「んんんんっ」  キスしながら、中を擦られて腰がガクガク揺れてしまう。キスがとまってしまった乳首がジンジンしてしまう。今は触れられてないのに、乳首に青の舌の感触が残ってる。 「あっ!」  その揺れる腰を尾てい骨から背骨へ、上へとなぞられて、背中を爪でカリカリって弱く引っ掻かれるのが、すごく気持ちイイ。 「みつの真似っこ」 「……へ?」  会話しながら、でも、くちゅくちゅ鳴る音はずっと止まらなくて、俺は、中で青の指を感じてる。 「してる時に、みつが俺の背中、カリカリ引っ掻くの気持ちイイ」  エッチするから、部屋の電気は消しておいた。LEDのほのかな光が遠慮がちに青を照らしてる。俺を見上げる青の表情に、今更ながら、ものすごくドキドキした。 「みつ、もう、平気?」 「んっ、あ、待って」  ずるりと抜ける指の感触に声が漏れた。 「青」  こんな青の初めてを全部独り占めできるってさ、なんか、年中誕生日プレゼントもらってるみたいに嬉しいんだ。だから――。 「今日、俺の誕生日」 「? うん」 「だから、俺のいうこと、聞いて?」  恥ずかしくてどうしても視線が泳いでしまうんだけど、でも、青にしてもらうばっかじゃやなんだ。ふたりでするんだから、俺は準備を自分でもしたかった。ローションとか、青とするのに必要なものを自分でもちゃんと用意したかった。 「え? み、みつ? いいって、みつ」  だって、セックスってさ、ふたりでするものだろ? 「俺も、青のこと、気持ち良くさせたげたい」  青のズボンを脱がす手が少し緊張してる。 「青……」  ドキドキするけど、でも、ふたりでしたい。してもらうばっかじゃなくて、ふたりで、セックス、したいんだ。

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