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第80話 本当に? 本当に、本当に!

 心臓が口から出そうなんだけど。 「お母さん! ただいま! みつ、来てるから!」 「おかえりぃ。文化祭お疲れ様ぁ」 「うん! 来てくれてありがと!」  駅から歩いたってそうはないんだけど、学校から駅まで、駅から商店街通って青の家まで、本気のマジダッシュだったから、酸素が足りてない。走ってきた勢いそのままに家に飛び込んで、その勢いと同じくらいのボリュームで「ただいま」って言った青のうなじが汗かいてて、なんかドキドキする。「おじゃまします」って言う声だってほぼ掻き消しちゃう青の慌てっぷりに、こっちの心臓がもたない。だって――。 ――早く帰ろう! まだ、うち、店開いてるから!  笑っちゃうよ。エッチするのに、早く帰ろうって焦るのなんてさ。急いでふたりでマジダッシュしたりして、これからエッチするために慌てて帰るなんて、色気がなくて笑っちゃうのに。  色気がないはずなのに、青の表情に蕩けそう。そんなゾクゾクするような顔でこっち見ないでよ。 「みつ、すっごい嬉しかった。一緒に和菓子、作ろうって」  部屋入った瞬間、抱き締められて、額にこつんって触れ合った。階段も駆け上ったせいで少し乱れた呼吸がこの距離だとお互いに唇に触れる。その吐息が熱くて、ドキドキした。 「青、さっき俺が言ったの、その、ずっと……ってことだから」 「うん」 「あの、そうじゃなくて、本当にずっと、一年とかじゃなくて」 「うん。ずっと、一緒に」  ぎゅっと抱き締められて、その腕に閉じ込められて、すごくきつくされるから、この身体から愛しさが溢れそうだ。 「ずっと、一緒に、いよう、みつ」  本当に? 本当に、本当に? 俺が言ってるのって、プロポーズと同じくらいにすごいことなんだけど、それわかってる? 「本気だからね? あとでやっぱ取り消しとか、言わないでね? みつ」 「そんなこと」 「プロポーズって、俺、めっちゃ受け取ってるからね」  どうしよう。抱き締められたら、胸んとこがきゅっと縮こまる。大きな手が背中からシャツの中に侵入してきた。たったそれだけで蕩けそうだ。でも、さっき走ったせいで今汗がすごい。 「あ、あのっ……ン、青」 「みつの肌、しっとりしてる」  戸惑ってることを言われて、恥ずかしいし、でも、青の手にものすごく敏感に反応しちゃってるし。 「だって、ぁっ」  マジダッシュしたんだ。青のほうが暑がりでベスト着てるけど、俺は寒いの苦手だから長袖のニットなんだ。電車の中も暖かかったせいで、そりゃ汗かくよ。 「ちょ、青、す……んの?」 「ダメ?」 「ン、あっ……ンんっ、ン、く」 「したい」 「!」  真っ直ぐに言われて、なんか、心臓を射抜かれた感じ。ドキドキして、胸のところが甘くて苦しい。走ったせいでおこる息切れのせいなんかじゃない。青のことが好きだなぁって気持ちが溢れそうで苦しいんだ。だから、溢れた分は伝えないともったいないから、言葉にする。 「ン、青……」 「みつ?」 「好きだよ」  好きって、胸から溢れた分を言葉として青に伝える。  そしたら、青はいつも少しだけ目を見開いて、少し茶色いチョコ色をした瞳を輝かせてから、眩しいものでも見つめるように俺に微笑んで、キスをする。  唇が触れて、離れると必ず言うんだ。 「俺も、みつのこと、好きだよ」  そして、今度触れた唇は深く濃く甘いキスをくれる。 「ン、んっ……ん」  舌同士が絡まって、ぴちゃ、って濡れた音がする。蜂蜜で舐めてるみたいな音がするキスに眩暈がするから首に腕絡ませて抱きついて。 「みつ」 「ン、ぁっ」 「しても、いい?」  逃げられないくらいに強く抱き締めるくせに、そんなこと、可愛い顔で聞くなんて、ズルいだろ。さっき、俺が一緒に和菓子作ろうって、ずっと一緒にって告白した時は、あんなに大粒の涙を零したくせに、今、男っぽい眼差しで、強い腕で俺のことをこんなふうにしちゃうなんて、ズルすぎる。 「あ、汗くさいって言ったら、怒る」 「言わない」  にこっと笑って、首を傾げて、そのまま無邪気に俺のことを押し倒す。 「思っても、怒るから」 「思わないって、みつの全部、美味しいもん」 「んひゃぁっ!」  ベッドの上に寝かされて、そのまま襲い掛かるように上から覆い被さった青にドキッとして、そして、首筋を強く吸われて甘い悲鳴を上げてしまった。 「みつ……」 「あっ、はぁっ……ン、ぁ」  お腹のとこ、ただのぺっとした腹なのに、なんで、青の唇が触れると肌がビリビリするんだろう。 「やっ! あぁっ」  お腹にキスされてるのに、どうして全身がこんなに気持ちイイんだろう。 「今日のみつ、なんか、すごい」 「?」 「俺、コントロールできる、かな……きつかったら、言って?」  肘をついて俺の上に覆い被さる青に噛みつかれたのかと思ったんだ。 「ン、んふっ……っン、く」  舌で唇を割り開かれて、そのまま捻じ込むみたいに舌だけじゃなくて、頬の内側までくすぐられて、クラクラする。お腹のところくっついてないのに、青の体温を感じて、こっちまで熱くて、溶けそう。 「ンぁっ!」 「みつ、みつ……」  すごく、好きなんだ。青のこと。今はもうどうしてこんなに何年も離れていられたんだろうって不思議に思うくらい、ここに青がいてくれないと困る。 「青、キス、してよ」  俺の隣で、くしゃって笑った顔を見せてくれないとつまらないよ。 「あと、触って」  青がここにいてくれたら、俺は。 「みつ」 「ン……な、に?」 「ずっと、一緒にいてよ。みつ」  俺は。 「みつのこと本当にすごく好きだから。絶対に幸せになるから。ずっと、俺のとこに、いて、ここにいて。それだけで俺は幸せになれちゃうんだ」  今度は俺が泣きそうになっちゃったじゃんか。

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