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柏餅入あおみつ編 9 昔懐かしお泊まり会

「あおー、お風呂、どうぞ」 「…………」  風呂から上がって、自分の部屋に行くと青が、とても、とっても恨めしそうな顔をこっちに向けた。本当に、ものすごく、ものすごーく恨めしそうな顔。そして――。 「思ってたんと違う……」  そう呟いて、人の口ってそんなにへの字に曲がるんだなぁと感心してしまうくらいに口をひん曲げた。  まぁ、確かにちょっと、ちょっとよりもう少し多めに、残念には俺だって思ってるよ。自営だから親が自宅にいるのは当たり前。完全二人っきりになれることは滅多にない。好き同士と親に理解してもらってるとしたってさ、ほら、その、つまりは、さ。 「んもー、仕方ないだろ」 「もっと、もっと俺はただれたお泊まり会にしたかったんだ……」  なんだそれ。そのただれたお泊まり会って。なんか怖いよ。 「お風呂だって一緒に入って、洗いっこして、いい雰囲気になって、そしたらそこで……うぅ」  一瞬、何か妄想がボワッと頭の中に浮かんだのか、嘆きの呟きの合間に一度ぴたりとフリーズしたと思ったら、俺のベッドに突っ伏して泣き真似してる。 「なのに! 何この、昔懐かしいお泊まり会!」  あ、ちょっと泣き真似じゃなかった。本当にちょっと泣いてる。 「でもあの時は一緒にお風呂入ったじゃん」 「だから違うとか、屁理屈だよお」  そしてまた俺のベッドに突っ伏した。仕方ないじゃん。下にシュウさん泊まってるんだから。もちろん一番風呂はシュウさんで、その後が俺で、ラストが青。今頃、シュウさんは台本でも読んでるのかもしれない。突然泊まるとかいうから驚いたけれど、どうってことはなかった。でも、そりゃそうだ。明日も丸一日使って撮影があるんだ。セリフとか覚えないといけないじゃん。 「お泊まり会、懐かしいね。俺、すっごい覚えてる」  へそを曲げてベッドに突っ伏したままのキャラメル色の頭のそばに腰をおろして、昔懐かしいお泊まり会のことを思い出した。  あれは、小学一年の時だった。学校は同じだけれどクラスが違ってたこともあって、前みたいに一緒に遊ばなくなってさ。少し寂しいって思ってたら、お泊まり会をすることになったんだ。多分、親がずっと一緒に過ごしていた青と離れて寂しがってるって思って、そうしてくれたんだと思う。 「まずは、うちに青が来て」 「……その次の日が俺んち」 「そうそう、二日連続」  なんで、二日連続にしたんだろうね。親がそうしたのか、俺たちが、早く早くもっともっとって親にせっついたのかもしれない。  けれど、すごく楽しみにしていた。  初めてのお泊まり会。  ずっと一緒にいて、どっちの家に行くのも互いに何も気兼ねしなかった。「お邪魔しまーす」みたいな感じでさ、どうぞ上がってくださいな、なんて言われる前にズカズカ上がっちゃう感じ。でもご近所すぎて、泊まったりはなかったんだ。まぁお店やってることもあって、親にしてみたら構ってあげられるわけじゃないからさ。流石に友達が来てるのにほったらかしってわけにもいかないから。 「あの時、すごい楽しかった」 「……うん」  ご飯も一緒に食べて、お風呂も一緒に入っちゃって、パジャマでさ。パジャマ姿だって見たことなんていくらでもあったのに。あの時はワクワクしたんだ。寝る瞬間までワクワクしてて、まだこの時間を手放したくないって必死にまぶたあけてた。もっともっと楽しみたいって。 「まだ寝たくないって必死にさ、みつとまだ起きてたいって、一生懸命に起きてたんだ」 「うん」  懐かしいね。 「寝るの我慢しすぎてさ」 「っぷ、そうそう、二人して布団もベッドもないところにうずくまって寝てたっけ」  布団に入っちゃうと五秒で目を閉じてしまうから、どうにかこうにか起きていようと二人して布団の敷いてない場所でさ、夜更かしして、気がついたら、その場に転がって寝てて。うちのお母さんが。  ――なぁに? そんなところで寝て。  って大笑いしてたっけ。 「あ、思い出した」  それで寝落ちたのがもったいないって二人して駄々こねてさ。翌日は青のうちに泊まることになったんだった。もっと一緒にいたいから。 「でさ、やったー! 今度は青のうちだーってなって喜んだけど、結局」 「あはは、バカだよね」  うん。  バカだよね。 「二人してまた床に転がって寝落ちしてたんだから」  ワクワクして、ドキドキして、寝るのが惜しくて。  ――みっちゃん……今度……は、みっちゃんの……番……だよ。  ――う……ん……えっと……。  ――あ、ウノ!  ――…………。  ――みっちゃんってば、ウノ。  ――……ひぇ? あ! ホントだ。  眠くて眠くて、でも眠たくなくて。この時間を手放したくなくて。半分寝ながらトランプやら、ウノやら、眠りたいと閉じかける瞼を擦りながらやってたんだ。  ――あらまぁ……なんで、あんたたち、そんなところで寝てるのよ。  けれどやっぱり寝ちゃってさ。翌朝、青のお母さんが呆れたようにそう言ってたのをうっすらと、寝ぼけながらも覚えてる。散らかったカードを敷布団にして寝ていた俺たちを見て。  ――本当にもう、よっぽど楽しかったのねぇ。  そう言って笑ってた。

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