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カラオケ

圭ちゃんはズルい── カッコいい上に、歌まで上手。スポーツも出来てそこそこ勉強も出来る。人当たりだっていいし、性格も勿論問題ない。寧ろだれにでも分け隔てなくて凄くいい奴。モテる要素しかない…… 羨ましいし、そして心配。 俺は夢中で歌いまくる圭ちゃんを複雑な思いで見つめていた。 「圭、さっき女子に呼び出されてたじゃん? 何? 告白されたの?」 何となしに靖史が圭ちゃんに聞く。おいっ! 何シレッと嫌なこと聞いてんだよ! そんなの告白されたに決まってんじゃん! 今日は卒業式だぞ? バカか! 自分が告白に失敗したから、俺は心の中で靖史にこれでもかってくらい悪態を吐く。そんなの聞きたくないじゃん……俺、告白すらちゃんと伝わってねえのにいきなりこんなところで失恋したくない。 ……でも気になる。 「あ、バレた? そう。なんか告白されちゃった。でもさ、俺そいつの事知らないし、話したこともないんだぜ? いきなり好きだから付き合ってください……って言われても無理だっつうの」 「じゃあ、断ったんだ」 「当たり前だろ」 あ……ちょっと嬉しい。 圭ちゃんの言葉を聞いて、俺は告白した女子に対して気の毒に思う反面、ホッとしながらざまあみろ、とも思ってしまった。 性格悪いな。でも嬉しいんだもんしょうがねえじゃん。 「圭は彼女とか欲しくないの? お前そういう話あんましないよな。興味ねえの?」 靖史はまたそんなこと聞きやがって! 告白のくだりで俺は気分がいいんだから、それ以上突っ込んで聞くなっつうの! 靖史の意地悪! ヒゲおっさん! くそったれ! 「あんま興味ないな。超好き! って思うような事、今までねえもん。お前らと遊んでる方がよっぽど楽しいし。誰かと付き合うなら、本当にこいつじゃなきゃ嫌だって思えるような人と付き合いたいな。妥協なんかしたくねえし。そういうもんじゃね? 」 「そうだなあ。とりあえず彼女欲しいから、とかエッチしてみたいから、とかで適当に付き合う奴もいるけどな」 「やだ靖史君たらスケベ」 「俺だって好きな奴としたいし」 「………… 」 圭ちゃんと靖史が楽しそうに恋愛観を話している。俺はそれを聞きながら圭ちゃんが好き、いや男が好きな時点でこの先恋人なんかできないのかもしれないんだな……と寂しくなった。 「陽介? どうした? 次何歌う?」 靖史が口数少なくなった俺に気づいて声をかける。めちゃウマな圭ちゃんの前で歌うのも恥ずかしいから首を振り靖史にマイクを差し出した。 圭ちゃんが「こいつじゃなきゃ嫌だ」と思えるような子はどんな子なのだろうか。その時が来たら、俺は素直に祝福できるのかな。圭ちゃんが適当に興味本位で誰かと付き合っちゃうような軽い男じゃないことがわかったのは嬉しかったけど、やっぱり先のことを考えたら俺は素直に喜べなかった。 靖史が何を歌おうかと選曲している間に、圭ちゃんは「俺、ちょっとトイレ……」と言って部屋から出ていった。

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