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罪悪感と後悔の念
あれから俺はどうやって帰ったのか全く覚えてない。
気がつくと自分の部屋で、すっかり朝になっていた。 そのまま身支度を整え、重い足取りで学校に向かった。
「……陽介……陽介って、おいっ!」
怖い顔をした純平が俺の顔を覗き込む。あまりに唐突な純平の出現に、驚いてひっくり返りそうになった。
「お前、大丈夫か? 顔色悪すぎだぞ? 寝てねえの?」
「………… 」
……だろうな。俺は今、人生のどん底にいる気分だ。這い上がれる自信もない。この身に重くのしかかって退いてくれない靄はきっと罪悪感と後悔の念。
もう立ち直れない──
純平に返事をする気にもなれなかった。俺は心配そうに俺を見る純平から顔をそらし、机に突っ伏した。
「おいおい……陽介、お前保健室行ってこい。な? 付き添ってやるから……」
「…………いや、いい」
あの高坂のところになんて行ったら、揶揄われるのがオチだ。傷を抉られるような思いはしたくない。
「……ほんとに? 大丈夫か? しんどいなら言えよ」
俺のつっけんどんな態度にもイヤな顔を見せずに、純平は俺から離れていった。
ありがとな、純平。
圭ちゃんからの他愛ないメールが今までは頻繁に届いていたのに、あの一件からはぱったりと無くなっていた。俺は毎日学校に行き授業に出て、学校が終わればバイトに向かい、一日一日をただ無気力に過ごしていた。気が緩むと圭ちゃんの事を考えてしまう。なんであの時……と、今更考えたってしょうがないことばかり頭に浮かぶ。
あれから何日経ったのだろう──
そんな事すらわからなく、どうでもよくなっていた。
バイトの給料日がきたのでとりあえずプレゼント代は確保出来た。金は手に入ったからほぼ毎日のように入れていたシフトを、これからは週に二、三日くらいに減らしてもらった。
ああプレゼント……
俺は圭ちゃんに誕生日プレゼントを渡せるのだろうか。どんな顔して会えばいい? 圭ちゃんの誕生日を祝う前にやらなきゃいけない事があるんじゃないのか?
また思い出しては、気持ちが沈む。
学校に行けば、毎日純平が俺の様子を伺い気を使う。どう見てもおかしい俺を心配してくれてるのに、あえて何も聞いてこないのがありがたかった。
「お前、ちょっと痩せたんじゃないか? ちゃんと飯、食ってるのか?」
昼休み、他愛ない話から急に俺の脇腹を掴んできた純平にそう言われた。確かに食欲もわかないからきちんと食べてないかもしれない。今日だって購買で買ってきたサンドイッチをひと口食べただけ……飲み込もうと思っても上手く喉を通らないんだ。 今日は暑さも手伝って、少し頭もフラフラしていた。
「食欲ねえんだ………あ、目眩……」
俺の様子に慌てた純平が肩を貸してくれ、保健室まで連れて行ってくれた。いや、保健室には行きたくなかったんだけど、抵抗する気力すらもう残っていなかったらしい。
「先生! 陽介がフラフラなの。休ませてあげて」
「………… 」
心なしか純平、保健室に来て嬉しそう。俺の心配もだけど、高坂目当てかよ……と突っ込む元気も俺にはなかった。
「先生いつ見てもかっこいいっすね」
純平が楽しそうに高坂に話しかけてる。いつの間にこいつに懐いてんだか。でもいつになく嬉しそうな純平が可愛く見えた
「陽介くん、どうした? えらい顔色が悪いね。とりあえずベッドで休んでな」
俺は黙ってベッドに潜り込む。本当に倒れそうだった。目が回って死にそうな気分。
「はいはい、じゃあ君は授業に戻りなね」
「はーい、先生ばいばい」
純平が元気な声で挨拶しながら出て行って、保健室は一瞬にして静かになった。
「陽介くん、痩せたね。自分じゃ気づいてないかもしれないけど顔、酷いよ。睡眠不足に食欲不振?顔色悪すぎ…… 」
高坂の言葉に何も言い返せない俺は黙って目を逸らす。
「何か悩んでるなら聞いてあげるよ。……人には到底言えないようなお悩みなんだろ? 僕なら君の気持ちがよくわかると思うんだけどな……」
なんだか見透かされているようで、やっぱり俺はこの人が苦手に感じた。
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