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心地の良い手
『僕なら君の気持ちがよくわかると思う……』
高坂が言った言葉を考える。そうか……高坂も俺と同じなんだ。きっと男が好きなんだ。それでもこの先生に悩みを相談する気にはなれなかった。
絶対面白がってる──
俺が無視を続けていると、高坂はベッドに腰掛け上から俺を覗き込んできた。気配に振り返ると思いの外近い距離で俺のことを見つめているからドキッとしてしまう。
やっぱりこいつ、ちょっと怖い……
俺を見つめる瞳が妖艶に光っているような気がする。普通じゃない雰囲気にのまれそうな錯覚に陥る。
「先生、何してるんですか?」
高坂の手が俺の額にそっと触れ、堪らず俺はその手を払った。それでも視線は俺から離れてくれないし、払った手がまた俺の額にそっと触れた。
「陽介くん、熱っぽい……熱あるのかな?」
熱を計るのなら体温計だろ! 無駄に色気出して俺に触るな! 俺はフラフラする頭の中で高坂に突っ込んだ。
「原因はあの時の赤髪の子だろ?」
「…………!」
思わずキッと睨んでしまった。図星を突かれて動揺を隠せない。心臓がドキドキする。圭ちゃんの事には触れないでほしい…… お願いだからそれ以上、俺に何も聞かないでくれ。
「彼氏と喧嘩しちゃった?」
俺の額に乗っていた手が頬を撫でる。少しひんやりとした高坂の手のひらが気持ちいいと感じてしまって、振り払うのを忘れてしまった。
「……だから、彼氏なんかじゃありません」
力なく答えるのが精一杯。
不覚にも涙が溢れてしまいそうで、俺はギュッと瞳を閉じた。
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