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思惑

病院へ行こうと外に出る。門の方へ目をやると赤い髪色が目にとまった。 門にもたれて立っているのは圭君だ。近づくにつれ圭君の表情が見えてくる。 酷い顔…… 圭君まであんなに思い詰めた顔しちゃって、きっと陽介君を待っているのだろう。俺が近くに来ても全く気がつく様子もなく、校舎の方を見つめている。 可愛い顔しちゃって。俺は躊躇うことなく圭君に話しかけた。 「圭くんだよね? こんなところでどうしたの?」 声をかけると随分驚いたように俺を見る。本当に気がついていなかったんだな。 「陽介くんを待ってるなら、彼は来ないよ」 「え? なんで? 」 圭君は不安そうな目を俺に向けた。 「陽介くんなら今病院だよ。これから彼のいる病院に行くんだけど、君も一緒に行く?」 あえて詳しくは教えない。わざと深刻な顔を見せながら俺はそう聞いた。 ほらほら……途端に焦った表情。それでも俺を警戒しているのか返事を躊躇していた。陽介君の事が心配なくせに。 「ごめんね、急がなきゃいけないんだけど……行かないなら僕はもう行くね」 わざと急かしてそう言うと圭君は慌てて一緒に行くと俺に言う。心配からか黙りこくってる圭君を連れ、俺は駐車場まで歩いた。 助手席のドアを開けてやり、圭君を車に乗せる。 思いつめたようにも見える無表情の圭君は今、何を考えてるのだろうか。 俺はエンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させた── 「圭くん? どうしたの? 圭くんも具合悪そうだけど……陽介くんが心配?」 俺が聞くと一瞬 ハッとした顔をしてこちらを向いた。 「友達なんだから、心配するの当たり前じゃないですか!」 圭君は怒った口調でそう言うけど、そんな怒るような質問じゃない。とてもわかりやすくて可愛いと俺は思った。 車を走らせながら横目で圭君を見るとぼんやりと窓の外を眺めている。 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ……あ、圭くんさ、ちょっと手見せて」 そう話しかけると何の疑いもなく圭君は俺の方に手を差し出した。すかさず俺はその手を取り、指を絡ませるようにして手を繋いだ。驚いて振りほどこうとする圭君を無視して、俺は強引にその手を自分の頬に添えた。 「何してんだよ! 離せ!」 「ちょっ、運転中! 危ないって。あんまりにも心配そうだから……手を握ってたら落ち着くかな?って思ってさ。知ってる? こういうの恋人繋ぎって言うんだよ」 「落ち着くわけねえだろ! 気持ち悪いな! 早く離せよ!」 すごい剣幕。怒った顔も可愛いんだけど、殴られそうな勢いだから圭君の手の甲にそっとキスして離してやった。 「嫌だなぁ……そんなに怒んなよ。怒った顔も好きだけどね」 「揶揄うんじゃねえよ!」 実は病院までは車で行けば十分もかからない。でもわざと遠回りをしている。この先すぐの所に車や人が殆ど通らない裏道があるから…… 「なあ、病院にちゃんと向かってるのかよ」 今度は不安そうな顔。 「ふふっ、向かってるわけないじゃん 」 車を停めると、俺は圭君の方へ体を向ける。慌てて俺から離れようと身を引くけど俺はそんな圭君の両手首を片手で掴み助手席のシートをぐっと倒した。 「なんだよ! やめろよ離せよ!」 「ん、圭くんちょっとうるさい……」 空いている片手で顎を掴み、こちらに向けると軽くキスをして口を塞ぐ。 目を見開いて驚愕の顔。そして怒りの顔から、恐怖の表情に変わっていった。 「そんなに怖がらないでよ」 俺は優しく圭君の髪を撫で、そのまま頬へ手を這わす。その手を胸から腰、太腿へ移動させ撫で回しながら圭君の首筋にキスを落とし軽く吸い付いた。 驚いて動けなくなっているのか圭君はされるがまま小さく震えている。 「……嫌?」 「嫌だ!」 キッと睨まれたけどやめてやらない。関係ない。 「陽介が病院ってのもウソなのかよ!」 「それは本当だよ」 「………… 」 顔を逸らし黙る圭君をもう一度こちらに向け、強引にキスをした。今度は僅かに開いた唇の隙間に舌を絡め入れる。 「んっ! ん……」 目を固く瞑った圭君は可愛い抵抗を見せる。一度唇を離し、今度は啄ばむように軽くキスをした。 ガリ… 不意に下唇に刺激が走る。瞬間、圭君が車から飛び出していった。 「………?」 違和感に下唇を手で拭うと、血が出ている。 あーあ、噛まれちゃった。 「逃げられちゃったか」 ここからも病院は見えてるし、歩いて行けるから大丈夫だよな。 「さて、帰るとするかな……」 俺は満足し、圭君を見届けてから家に帰った。

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