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圭の思い

いつまでもこのままじゃだめだ。 いくら待っていても陽介からは連絡が来なかった。 嫌われてもいい…… このまま何も伝えられないままで陽介との関係がなくなってしまうのは嫌だった。 ちゃんと俺は陽介が好きなんだって事、伝えたい。 気がついたら、陽介の学校まで来てしまっていた。 この時間なら、もう少し待てば下校時間だろう。陽介が出てくるまで、ここで待とう── ぼんやりと玄関の方を眺めていたら、突然名前を呼ばれ驚いた。見ると前に話しかけて来た高坂という保健医だった。 初めてあった時にも感じた嫌な雰囲気。優しい顔をしているけど、とってつけたようなその笑顔に俺は違和感を感じていた。 俺が陽介を待っているとわかると「陽介くんは来ない」と高坂は言った。陽介は病院にいて、高坂も今からそこへ行くから一緒に来るかと誘われてしまった。 いきなりそんな事を言われても信じられない。でもこの人がそんな嘘をつく理由も思いつかず、不安が徐々に膨らんでくる。 病院って? 陽介に何があったのかな? 学校から病院に運ばれたって事なのか? 考えていたって学校も違う俺には知る由もない。 少し考えていたら、もう行くから……と急かされてしまい、俺は慌てて一緒に病院まで行くことにした。 軽率に車に乗ってしまった俺が悪い…… この辺の大きな病院なんてあそこしかないのに、よく考えれば高坂の車に乗らなくても俺は病院まで一人で行けたんだ。 今更後悔したってもう遅かった。 俺が油断したばっかりに、高坂の思う壺だった。でもまさか、あんな事をされるとは思わなかったんだ。 男なのに── 俺はあっと言う間に抑え込まれて、全然抵抗できなかった。 無理やり体を触られて、唇を奪われて…… 怖かった。 気持ち悪かった…… 無我夢中で逃げ出して、なんとか陽介のいるであろう病院まで来ることが出来た。 足がガクガク震える。 体にこびりついた嫌悪感が離れてくれない。 陽介……陽介に触れたい。 陽介になら抱きしめられたってキスされたって幸せな気持ちにしかならないのに、陽介じゃないとこんなにも違うなんて、こんなにも気持ちが悪いなんて…… 泣きそうになった。 陽介に早く会いたくてとりあえず俺は走った。本当にこの病院にいるかもわからなかったけど、それでも陽介に会えると信じてロビーを走る。 「圭ちゃん!」 聞き慣れた声が耳に飛び込んでくる。 やっと会えた嬉しさに、場所もわきまえずに抱きしめてしまった。 どうしたのか心配だったけど、とりあえず元気そうだったからホッとした。 本当に良かった… … 陽介が元気そうで安心した。でも話がしたかった。このまま陽介と別れるのは嫌で、俺の家に寄ってほしいと強請ってしまった。 それに…… あんな事があって、一人で過ごすのが怖かったんだ。陽介は俺の様子に疑問も持たずに快くついて来てくれた。 並んで歩いている道中、沈黙が続く。さっきは思わず抱きついてしまった。きっと陽介は困ってるんだろうな…… 俺は靖史から「陽介が体調悪そう、様子がおかしい」と聞かされていた。俺のせいで陽介は悩んで苦しんでいるんだとわかった。 早く謝りたい── 玄関に入ると堪らず俺は陽介に抱きついた。 謝ろうとしたら、俺の話を最後まで聞かずに陽介は話し出す。 お酒の勢いでごめんって。圭ちゃん嫌がる事してごめんって…… やっぱり…… あの時の俺の涙は、俺が嫌がって流した涙だと思ってたんだ。俺のせいで陽介は今までずっと罪悪感で一杯だったんだろうと思うと申し訳ない気持ちになってしまった。 嬉し涙だったのかと改めて聞かれると恥ずかしいな。 陽介の口から「付き合ってもいいか?」と聞かれた。 途端に嬉しくて、恥ずかしくて、顔を上げることができなかった。 俺が頷くと、喜んだ陽介はこれでもかってくらい俺のことを抱きしめてくれた。陽介のぬくもりに、一気に安心感とか幸福感とか、温かい感情が身体中に湧き上がってくる。 照れ臭さも相まって「苦しい」と言って陽介に文句を言った。俺が顔を上げたら、陽介は凄く優しい顔をして頬を触る。触られて俺はまた泣いてしまってるのに気がついた。 俺、陽介の前だと泣き虫だ── 「今まで待たせちまって、ごめんな。ありがとう陽介」 やっと言えた……俺を好きになってくれてありがとう。

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