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誕生日プレゼント
遡ること、二週間程前の話──
俺は圭ちゃんの誕生日プレゼントを何にするか決めあぐねていた。
何がいいか…… そもそもプレゼントを用意したところでどうやって渡したらよいのだろう。 あんな事をしてしまって、どんな顔して会えばいいんだ?
俺は自分の部屋でぼんやりと給料の入った袋を眺めていた。
「なあ、兄貴。母ちゃんが昨日も飯食わなかったのか?って怒ってんぞ」
いきなり弟の康介がズカズカと部屋に入ってきた。昨日も夜勤前に晩飯用意してくれてたんだよな…… 食べるの忘れてた。温めて食べようとは思ったんだけど、結局食べられなかったんだっけ。せっかく用意してくれてるのに、悪いことしたな……
「おおっ! 凄っ! 何このお金? 」
まだ部屋から出ていってなかった康介が俺の金を見つけて取り上げた。
「おい! ふざけんな、返せって! お前にはびた一文やらん!」
興奮気味な康介を小突いて俺は慌てて奪い返した。
「なんだよ、マジでどうしたの? その金」
康介は俺の部屋から出ていくどころかベッドに腰かけて居座るつもりらしい。説明しないと出て行かないと思い、しょうがないから少し話した。
「バイトしたんだよ。友達に誕生日プレゼント買うのにな」
あ……やべ、余計な事言ったかも。
「え? 友達に? わざわざ? バイトまでしてプレゼント?」
やっぱり……
ニヤニヤして康介が聞く。
「なんでもいいだろ。お前、用がないなら早く出て行け」
追い払おうとしても、益々康介は興味津々で俺を見ている。絶対こいつ、彼女だなんだと言ってくるに違いない……と思った矢先に「彼女か!」と叫ぶもんだから呆れてなにも言えなかった。
「なぁ、兄貴……女なんだろ? 彼女、可愛い? 写真とかねえの?」
ああもう、面倒くせえな。
「うるさいな。彼女なんかじゃないって……」
俺の言葉に康介は目を丸くする。
「え? もしかして兄貴片思い? プレゼントして告白すんの? マジで?」
めちゃめちゃキラキラした目で俺を見るけど見当違いも甚だしい。
「本当になんでもないんだって……友達だし。でもちょっと喧嘩してな。だから仲直りも兼ねて……」
ここまで言えば康介も満足だろ? まあ強ち嘘でもないし?
「マジか? じゃ、そのプレゼントかなり重要じゃね? ボヤッとしてねえで真剣に考えろよ!」
……だから!
「だから! お前邪魔だから早く出て行け!」
そう怒鳴ると、やっと康介は慌てて部屋から出て行ってくれた。
次の日、俺は昨晩考えた圭ちゃんの誕生日プレゼントを買いに一人で出かけた。休みの日だけあって人も多く、俺のお目当てのショップもセールを開催しているせいか客が多くて混雑していた。
店内に入ると俺は真っ直ぐお目当ての物が並ぶショーケースへ向かう。セールをやっているのはありがたいけど、こうも人が多いとゆっくり見られないな……そう思ってうんざりしながら他の客の間からいくつか目星をつけた。
これから長く使ってもらいたいからやっぱり大人っぽいデザインがいいかな? 圭ちゃんの事を考えながらこうやってプレゼントを選ぶのは、気持ちが弾んで嬉しかった。
「ご自分用でお探しですか?」
女性の店員がにこにこしながら声をかけてきた。いくつか見せてもらおうと思っていたからちょうどよかった。
「いや……プレゼントなんです」
「でしたら、女性用はあちらにございますので、どうぞ…… 」
その店員はさらに向こうのショーケースを指差し歩き始めようとしたから引き止めた。
なんで「プレゼント」と言ったら女物?
ちょっとムッとしながら「男性にプレゼントするんです」と答えると「失礼いたしました」と言って紳士物のお勧めをショーケースからいくつか出してくれた。
普段も圭ちゃん、ここのブランドの洋服が好きでよく着ている。似合っていてかっこいいんだよな……
大人っぽいもの……やっぱり普段の圭ちゃんらしい方がいいかな?
散々悩んだ末、ブラックのレザーでブランドロゴが型押しされている少しシンプルなものにした。
ラッピングも施してもらい、支払いを済ませる。商品を受け取ると、圭ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
今使ってるのはボロボロだったから……
この財布なら、毎日身につけてくれるよね。
喜んでくれるといいな──
あれから康介から「プレゼントは渡せたのか? 仲直りできたのか?」と何度も質問攻めをされてもううんざり……
おまけにラッピグされたプレゼントまで見つかってしまい、こんなシンプルなラッピングじゃだめだの、中身は何なんだだの、散々康介にいちゃもんをつけられた。
その時はプレゼントを買ったはいいけど渡せる自信がなかったから、康介の言葉にイラついてしょうがなかったけど、とうとう圭ちゃんとうまくいき、めでたく恋人同士になれた今では康介なんてもうどうでもよかった。何言われても小鳥のさえずり、豚の鼻息だ。
数日遅れで圭ちゃんにプレゼントを渡しに行ける──
誕生日は過ぎちゃったけど、圭ちゃん喜んでくれるかな? どんな顔をするだろう。
これから圭ちゃんの家に行く。もちろんプレゼントのことは内緒だ。
あ……でもいきなりプレゼントなんて渡したら、びっくりするかな? 引かれてしまうかな?
歩きながらちょっと心配になってきちゃった。
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