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ギター

「先生、ちょっと休ませて」 保健室に入ると、保健医の高坂が俺のことを見る。 眉毛を上げて「珍しいね陽介くん」と何故だか嬉しそうに話すから、イラっとしてしまった。 こいつは圭ちゃんとの事があるからどうしても好きになれないんだけど、他の生徒からはすこぶる評判がいい。他の教師からも頼られているのを知っている。 観察眼が凄いというか、人の事をよく見ていて色んな相談にも的確にアドバイスをくれるらしい。 俺はこんな奴に悩み相談なんか死んでもゴメンだけど…… なるべく高坂と話さないようにベッドへ横になったのに、すかさず高坂が俺の方へ寄ってくるのがまた鬱陶しかった。 「なんだよ? 俺に用?」 ふふっ、と高坂が笑顔で俺を覗き込むと不躾に「圭くんは元気?」なんて聞いてくる。どの口がそんなことを聞いてくるんだ? 喧嘩売ってんのかよムカつくな。 「先生に教える義理はないです」 あれ? ふと高坂の机の横にある物に気付いた。 「なにあれ? 先生の? え? ギターやるんだ。意外だね」 そう、机の横に立て掛け置いてあるのはケースに入ったギターだった。 「まさか! 違うよ、僕のじゃないよ。一年の。 預かってんの」 へぇ、一年のか……てか、なんで学校にギターなんか持ってきてんの? 「これ、取り上げられてここにあんの?」 ちょっと興味があったから俺は先生に聞いてみる。 「違うよ、(たちばな)が……あ、このギターの持ち主が橘っていうんだけどね、ここに置いてったんだよ。取り上げられるといけないからって」 「へ? そもそも学校なんかに持って来なきゃいいんじゃね? そいつバカなの?」 取り上げられそうな物、しかもこんな目立つものを初めっから学校になんか持って来なきゃいいだけの話。理解不能…… 「まあな……なかなかカッコいい奴なんだけどな、ありゃ性格がダメだ……俺様、わがまま君」 そう言って高坂が溜息を吐いた。 あぁわかった…… その橘って奴がイケメンだからコイツはほいほいこんなの預かってんだ。 ちょっと笑える…… しばらく高坂と話をしていたけど、眠くなってきたのでバイトの時間まで寝かせてもらうことにした。 あれ、高坂誰と喋ってんだ?── ふと目が覚めて意識をカーテンの外へ向ける。 楽し気に聞こえてくる誰かとの会話。 「……なんで? いいじゃん、先生も言ってんでしょ? 協力してよ 」 「うん、でもなんで僕が?」 「え? だって先生かっこいいじゃん!」 「またまた、君は調子のいい事言って」 「俺もちゃんとするからさぁ。ねぇいいでしょ」 ………… なんだ? イチャコラしてんのか? 学校だぞ、うるせえな。 体を起こし時計を確認する。そろそろ出ないとバイトに遅れる。 俺はベッドから降りると、カーテンを開けて一応高坂に声をかけた。 高坂と一緒に喋ってた奴は、綺麗な顔立ち、明るい髪色、で……イケメン。かなり目立つタイプだった。でもやっぱり見たことないから一年生なのかな。まあなんだっていいや…… 「先生、ベッドありがと。バイト行ってくるね」 俺はひと眠り出来てスッキリとバイトに出かけた。

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