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ギターの男とイケメン君
オリエンテーションのあの日から何日か過ぎたある日、純平が突然思い出したかのように話し出す。
「屋上にいた奴覚えてる? あいつあんな貫禄で一年生だってさ。びっくりしたよ。陽介知ってた?」
いや、知らないし……
「なんか凄いらしいよ」
純平が少し興奮しながら言う。
「何が凄いの?……てか、見た目でかなり凄そうなのはわかるけど」
あの風貌だ。いろんな意味で「凄い」と思う。純平が俺の言葉に頷いた。
「あれ橘って言うらしいんだけど、とにかく喧嘩が強いらしくてめっちゃ喧嘩売られ放題。橘からは喧嘩売ったりしないみたいなんだけど、あんなナリだから絡まれるんだろうな。でも無敗! 負け知らずなんだとよ。やるねぇ橘くん」
屋上であんなにビビってたくせに、純平は楽しそうにそう話した。
……あれ? そういや橘ってどっかで聞いた名前。
「喧嘩はするわ、授業はサボるわで入学早々先生達から目ぇつけられてんの」
それはしょうがないわな。自業自得ってやつだ……
てか……橘、橘?
「あ!!」
横にいた純平が突然の俺の声にビクッと飛び上がる。純平のチキンぶりに思わず吹き出してしまった。
思い出した!
そうだ、高坂が言ってたギターの一年か。
へぇ、あいつギターやるのか。意外だな。
目付きが悪い印象だけで、高坂が言ってた「イケメン」という言葉に首を傾げる。イケメンだったかな? 派手でデカイって印象しかない。
純平とそんな話をしていると、廊下が少し騒がしくなった。
わざわざ廊下に出て行くのもかったるいので、純平と二人で首だけ廊下に向けていると、見たことのある人影が横切って行く。ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねながら通り過ぎるそいつは、俺が保健室で見たあのイケメンだった。
多分一年だよな。一年生がこんな所に何しに来たんだ?
何やらいろんな奴に話しかけて楽しそうにやっている。俺らはぼんやりとそいつを眺めていた。
廊下を横切り消えていったそいつはまたすぐ戻ってきて、楽しそうに笑顔でそこらにいる奴らに声をかけてる。
ふとこちらに顔を向けたと思ったら、がっつりと目が合ってしまった。
……あ、ヤベ。
目があった瞬間、そいつの顔がパアッと明るくなるのがわかった。
「あ……」
そいつは目を輝かせて廊下の窓から身を乗り出してくる。
「ねぇー! 先輩! こないだ保健室いた先輩っすよね?」
間違いなく俺に向かってブンブンと手を振っている。ああ……面倒臭そう。
俺が動かないから痺れを切らしたのか「俺、そっち行ってもいいっすか?」と言いながら、俺の返事なんて待たずにずんずん教室に入ってきてしまった。
「俺、谷中修斗 一年でーす」
笑顔爽やかなイケメンがこっちを見る。そして「チャラそう」以外の何ものでもないそいつは軽い自己紹介をして図々しくも俺らの前にちょこんと座った。
「修斗君っていうんだ。元気がいいね。何しに来たの?」
イケメンにめっぽう弱い純平が、修斗に負けじとにこにこ笑顔で聞いている。
「先輩達、部活は入ってます?」
なんだ? こいつも勧誘か? 一年だよな?
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