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気になる

自分の周りにギターを弾く奴なんて圭ちゃんしかいないからか、俺はなんとなく橘が気になっていた。軽音部に入る気は更々ないけど、あの陽気な修斗と親友だっていうのもまた興味が湧いた。 保健室へ行ってみたらもしかしたら橘がいるかもしれない……そう思って寄ってみるもそこには高坂しかいなかった。 「ん? 陽介くんどうしたの?」 あんまり保健室に寄り付かない俺が立て続けに訪問してきた事が不思議らしく、高坂が首を傾げる。 「ちょっと休憩。こないださ、修斗って一年が二年の階に来てたよ。前にここにいたイケメン君だよね?」 俺が聞いても「あぁ……」となんだか気の無い返事。こいつもイケメン好きなんじゃなかったのかな? 「こないだあいつとイチャコラしてたじゃん。何? そのつまらなそうな反応」 高坂はクルッと振り返り、大きな溜息を吐いた。 「イチャコラしてたんじゃないよ。僕、修斗くんに軽音部の顧問頼まれたんだよ……」 いつもの作り物の笑顔は消えていて、心底面倒くさそうな顔をした。 「橘の担任にも頼まれちゃってさ……部活が出来れば橘も少しは大人しくなるからって。確かに軽音部ができたら毎日部活のために学校来るし真面目にやるってあいつ言ってんだけどな」 調子のいいこと言ってやがる……と思いながら俺は高坂の話を聞いていた。それに高坂が軽音部の顧問って、それもちょっと笑える。 「顧問やってあげればいいじゃん」 自分には関係のないことだから、俺は気楽にそう言った。 「いやね、顧問も引き受けたし、部室も既に用意してもらってんだよ。まだ二人しかいないから部活にもなってないんだけどな」 凄え……もう準備万端じゃん。 「問題児の橘がやたらと保健室に来るもんだから、先生達が僕を監視役にしたがってんだよ。面倒くさいと思わない? 好きにさせときゃいいのに。全く適当でいいじゃんね」 高坂がふて腐れた顔をして俺を見る。保健医とはいえ先生じゃん。こんな適当でいいのかよ…… 「いや、先生が適任なんじゃん?」 しばらくの間、高坂と喋っていたけど橘が保健室に来ることはなかった── 「……そろそろ帰ろっかな」 今日は圭ちゃんとデートなんだ。こんな所で油売ってる場合じゃなかった。橘とはまあそのうち会えるだろう…… 「いいなぁラブラブで。デートなんでしょ? 僕が送ってあげようか?」 こいつはわざと俺をイラつかせようとしてんのかな? 「遠慮しとく」 俺は保健室を出ると圭ちゃんとの待ち合わせ場所へ急いで向かった。 今日は圭ちゃんの買い物に付き合ってから、そのあとカラオケ。圭ちゃんの好きなデートコースだ。 待ち合わせのコーヒーショップに到着し、中に入ると奥の席に圭ちゃんの姿が見えた。 赤い髪が目立ってる。 ……可愛いなぁ。何飲んでるのかな? 俺はアイスコーヒーを頼み、圭ちゃんの待つ席へ向かった。 「圭ちゃん、お待たせ! ごめんね、待っちゃった?」 泡立つカップを両手で持ち、目だけを上げてこちらを見る圭ちゃんにちょっとムラッと来たのは内緒…… 「ん、さっき来たとこ。陽介今日は制服なんだね」 「あ、帰って着替える暇なかった。マズかった?」 ニコッと笑い、首を振る圭ちゃん。 「うんん、大丈夫。 今日さ、楽器屋さん付き合って」 両手で持ったカップをちびりと啜り、圭ちゃんがそう言った。両手でカップを持つ姿がまたなんとも言えず可愛くてしょうがない。 「圭ちゃん何飲んでるの? 珍しいねそういうの……」 俺が聞くと、顔を上げた圭ちゃんの唇に泡が付いてるのが見えて笑ってしまった。 手を伸ばして親指で圭ちゃんの上唇を拭ってやると、恥ずかしかったのか真っ赤な顔になる。 「キャラメルなんちゃらってやつ……失敗した。甘すぎだよコレ」 もう、この人はなんでこんな表情をするんだろう。たった一週間ぶりなだけなのに、可愛い圭ちゃんを抱きしめたくてしょうがなくなり、心の中で悶絶する俺。大好きすぎて俺、ヤバい奴だ…… 俺は圭ちゃんにアイスコーヒーを渡し、かわりに甘ったるいキャラメルなんちゃらを俺が飲んだ。取り替えっこした圭ちゃんは満足そうに俺のアイスコーヒーを飲み干した。

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