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お膝枕トーク
楽器店の中で圭ちゃんは黙々と何かのコードを選んでる。俺には全くわからない世界だ。ぼんやりと圭ちゃんの後についてまわり、よくわからないけど適当にあちらこちらを眺めていた。
こういうのは俺の知らない世界だけど、でも圭ちゃんが無茶苦茶ギターが上手くてカッコいいって事は分かっている。 うん、それだけ分かってれば俺は満足。
真剣にものを選んでいる姿も可愛いなぁなんて眺めながら、俺は圭ちゃんが買い物を終えるのを待った。
「陽介お待たせ」
買い物を済ませ満足そうな圭ちゃんに呼ばれ、俺たちはそのままカラオケへ向かった。
実はカラオケはあまり好きじゃない。
俺、歌下手だから……
でも歌ってる圭ちゃんが大好きだから、好き。
俺は滅多に歌わないんだけど、たまに歌うと圭ちゃんはちゃんと褒めてくれる。
下手なのに……凄くむず痒い。
今日も俺は歌わずに、圭ちゃんの歌声を聴いている。圭ちゃんは、J-popから洋楽、アニソン、はたまた演歌まで気が向けば何でも歌う。洋楽なんて、発音が良すぎて感動モノ。
「ああ喉乾く!」
一頻り歌い、すとんとソファに腰掛けレモンティーをストローで飲む圭ちゃんの膝に、俺は待ってましたとばかりに頭を乗せた。
「なんだよ、陽介」
ビクッとして圭ちゃんが驚いてる。
「だって圭ちゃん、やっと座ったんだもん。大好きな膝枕」
好きな人に甘えてみたいっての誰にでもあるだろ? 男の憧れ…… 俺も隙あらば圭ちゃんに膝枕をしてもらうのが大好きなんだ。
「全くもう……」と呟きながら少し顔を赤らめて、圭ちゃんが俺の頭を撫でてくれた。
心地良くって幸せ……
圭ちゃんはもう歌う事に満足したようで、ここからはゆったりお喋りタイム。膝枕のままで他愛のない話をする。楽しそうに俺の髪や頬を触りながら、突然思い出したように「そうだ!」と俺の鼻をキュッと摘んだ。
「痛っ」
「あ、ごめん……そういえばさ、透の事覚えてる?」
……透君? もちろん覚えている。圭ちゃんのバンドのベースをやってる透君。
「ベースの奴だろ? 覚えてるよ。透君がどうしたの?」
「透、バンドやめちゃうんだよ。もともと一年だけだって約束だったんだけど……」
期間限定だったんだ。さすがに二人じゃ出来ないよな……
「え、じゃぁ、これからどうすんの?」
圭ちゃんが俺の顔をジッと見下ろしている。
……嫌な予感。
ニコッと笑った圭ちゃんの顔が近づいてきたと思ったら、チュッと唇を奪われた。
何それ、可愛いキス!
「ベースやらない? 陽介」
「………… 」
やっぱりそうきたか。
前にギターのお誘いも断ったでしょ?
忘れちゃったの? 俺には無理だよ圭ちゃん……
「俺は無理だよ。凄い不器用なの知ってるでしょ? 練習したって弾ける気がしないし、俺は表に出るタイプじゃないんだってば……」
圭ちゃんが潤んだ瞳で俺を見下ろし、もう一度優しいキスをしてきた。
もー!
そんなあざと可愛いことしたって無理なもんは無理!
「圭ちゃん、ごめんね……あ、ねぇもっかいチュウして 」
圭ちゃんは俺のおデコをペチッと叩き、ベースやってくんないならキスしないと言って「ベェっ」と舌を出した。
……やだ可愛い。
あ! そうだ!
「圭ちゃん、俺の学校の今年入った一年がさ、軽音部作りたがってんだよ。軽音部っつったらバンドだよね?」
ふと思い出して思わず言ってしまったけど、よくよく考えたらギターをやるであろう橘とは話したこともないし、あの軽い雰囲気の修斗に関しては何の楽器をやるのかすらわからない。あのイケメンっぷりはボーカルかもしれないし……
俺の言葉に圭ちゃんの顔がパアッと綻ぶ。
「そいつどんな奴??」
ごめん圭ちゃん、どんな奴か全然知らなかったよ俺…… 勢いで言ってしまい後悔した。
「よく知らないんだ、ごめん…… ギター持ってる奴は……なんかデカくて派手な奴。もう一人はイケメンで軽そうな奴で、楽器は何やるかわからない」
一瞬キョトンとした圭ちゃんは「ダメじゃん! 陽介なんも知らないんじゃん!」って腹抱えて大笑いしている。
……そんな笑わなくても。
「でも、今度そいつら紹介してよ。ライブ連れてきてくれてもいいし。透もまだしばらくはいるし、次のライブの日程教えたよね?」
俺は、連れていけたら連れてくわ、と返事をしておいた。
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