78 / 134

周の悪い癖

高校に入学したら、修斗と一緒にバンド組むんだ── そう思って二人で軽音部に入部するつもりでいた。 でもこの高校にはそんな部活は存在せず、入学早々俺はやる気がなくなった。 サボるのに丁度いい場所を屋上に見つけるものの、ちょろちょろ他の奴が来るから落ち着かない。結局は保健室に居つく事が多くなった。 部活がないなら作ればいい! そう思って修斗と保健医の高坂に相談すると、高坂は色々と先生達に掛け合ってくれた。人数も足りないしまだ形にもなっていないけど、とりあえずは部室をあてがってもらえたから練習場所…… サボり場所は確保できた。 軽音部を作るにあたって絶対だという約束。ちゃんと授業も出て問題行動をするな……だとさ。 ここまで準備してもらえたからにはちゃんと部員も確保して形にしなくちゃいけない。でも俺が部員を勧誘するとなぜかすぐに喧嘩になるから、勧誘は修斗に任せることにした。 部員も集まらず、もう諦めかけていた矢先に陽介さんという先輩に声をかけてもらえた。メンバー募集中のバンドがあるって言うその先輩に連れられて、そいつらのライブを見にいったんだ。 びびった…… あのギターボーカルがヤバすぎる。 小柄ながら存在感抜群のそいつは、俺が尊敬してやまないギタリストの演奏と瓜二つだった。凄えよく似てるんだ。俺の頭の中は「どうして?」でいっぱいだった。 ライブの後、控え室で見たその人物はなんだか小さくて目がキラキラしていて、ステージの上の印象とは全く違っていた。 なにこのギャップ…… 超可愛い。触りてえ…… そして、陽介さんが紹介してくれたその人物、圭さんはなんとそのギタリスト坂上泰牙の息子だったということが判明した。 もうびっくりにも程がある! 堪らず俺はそいつに抱きついてしまった。 俺は自分より小さくて「いいな」って思うとやたら触りたくなる変な癖がある。 自分では気がつかなかったけど、修斗に指摘されて自覚するようになった。 気分害する奴もいるからやめなって怒られた。そんな修斗にも今まで無自覚でベタベタしていたらしい。 久しぶりに俺はその癖が再発してしまったらしく、いったん抱きついてしまったらもう止まらなかった。 子犬みたいな愛らしさと柔らかい赤い髪……しかもあの泰牙の息子だろ? 別に俺は男相手に恋愛感情は湧かない。気に入った奴には触れていたいって思ってしまう変な癖…… ライブの打ち上げの間も、酔いが回って上機嫌な圭さんを前に抱えて泰牙の話を沢山した。 途中で陽介さんも合流して、そしてお開きになり外に出る。圭さんは俺から離れて陽介さんのところに行ってしまった。見てるとべったりくっついてるからちょっとムカつく。 まだ全然話足りないしもっと一緒にいたかった。圭さんにもそう言ったけど、やんわりと断られてしまった。 俺も酔っ払った修斗に呼ばれ送る羽目になり、その場で解散。 残念── 陽気な修斗の肩を抱き、支えながらしばらく歩いていると修斗が話し出した。 「周、また悪い癖! やめなよ、あれはマズイから」 酔っ払ったと言う割に、やけにしっかりした口調。足元だってしっかりしていた。 「なんだよお前、酔ってんじゃねえの?」 修斗に聞くと「へへッ」と笑った。 なんだよ、騙された…… 「ダメだよ。多分だけど圭さんと陽介さん、付き合ってるよ…… だからあんな触りまくってたらマズイからな」 「付き合ってるって男同士だろ? んなわけあるかよ」 俺の言葉に修斗も「うーん」 と首をかしげる。 「そうだけどさ、付き合ってなかったとしても、陽介さんは圭さんの事、特別に見てると思うよ」 修斗は人のことをよく見ている。だから妙に説得力はあるんだけど、それにしたってあの二人が付き合ってる? ちょっと信じがたかったけど、とりあえず修斗に「目に余る」と怒られたからあんまりベタつかないように気をつけようと思った。

ともだちにシェアしよう!