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話してくれるまで…
「陽介…… 陽介」
遠くで圭ちゃんの声が聞こえる、
………!
「圭ちゃん!」
また寝てしまった俺は、圭ちゃんの声で目が覚めた。目の前に圭ちゃんが驚いた顔をして立っている。
「陽介…… 来てたのか」
なにそれ…… 来てたのか、じゃねぇよ。
「圭ちゃんどうしたの? 俺、電話もメールもしたんだけど……」
少しムッとしてそう言うと、慌てて圭ちゃんはポケットから携帯を取り出した。
「……悪い。電源落としてた」
圭ちゃん、俺と目も合わさないんだな。様子がおかしいのは一目瞭然だった。
「圭ちゃん、今日は…… 」
「陽介泊まってくだろ? 俺ちょっと疲れてるからもう寝るわ…… 」
俺が今日のことを聞こうと話し出したら、それを遮るように圭ちゃんは疲れているからと言ってベッドルームに行ってしまった。
「……圭ちゃん?」
話したくないのかな。
きっと親父さんと会っていたんだろう。
何話してきたのかな……
俺は圭ちゃんの眠るベッドに潜り込む。
俺に背を向け壁の方に体を向けてるから、圭ちゃんは寝てるのか起きてるのかわからない。
色々と聞きたい事があるけど圭ちゃんが話してくれるまで待つ方がいいのかな…… 俺は何も言わない圭ちゃんの背中に「おやすみ」と呟き目を瞑った。
朝、美味しそうな匂いで目が覚めた。
「ん…… 圭ちゃん?」
隣で寝ていた圭ちゃんはもういない。
眠い目を擦りながらリビングに向かうと、エプロン姿の圭ちゃんが笑顔で俺に「おはよう」と言う。
「昨日はごめんな。腹減ってんだろ? ちょっとボリュームある朝食作っといたから食って」
そう言って圭ちゃんはトーストの上にたっぷりタラモサラダを乗せたものを運んできた。あとレトルトのコーンスープと半熟卵。
「コーヒーも淹れてあるから飲んでね」
そう言いながら圭ちゃんは鞄を取りリビングから出て行こうとする。
「え? 待って早くね? もう学校に行くの?」
不思議に思い話しかけると、ぎこちなく笑顔を浮かべて圭ちゃんは振り返った。
「今日俺、補習あるんだよね。朝っぱらから参るよな…… じゃ、お先に 」
片手をヒラヒラさせて圭ちゃんは出て行ってしまった。
なんだよそれ。
相変わらず圭ちゃん、嘘下手だな……
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