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吐き出す

歩きながら、知らないうちにどんどん涙が溢れる。ハッと気づいて慌てて掌でそれを拭い、また歩き出す。 ……ダメだ、俺こんな状態で家になんか帰れない。 家には康介もいるだろうし、何か聞かれるに決まってる。ちょっと気持ちを落ち着かせたくて俺は携帯を取り出し、靖史に電話をかけた。 すぐに出た靖史は俺の口調で何かを察してくれたらしく、何も聞かずに「すぐに俺んちに来い。誰もいねぇから……」と言ってくれた。 靖史の家は酒屋を経営している。店舗の上が居住スペースになっているものの、靖史の部屋はそこではなく同じ敷地内にある倉庫みたいなプレハブ小屋だ。家の人に見られることもなく、直接靖史の部屋に行ける。 俺は真っ直ぐ靖史の部屋へ向かい、ノックもせずに勝手に中に入る。 靖史はベッドに腰掛けてマンガを読んでいたけど、部屋に入るなり涙が溢れ出てしまった俺に驚き駆け寄ってきてくれた。 「なんだよ! どうした? 大丈夫? ……圭から聞かされたんだろ? え? そんなに泣き崩れるほどの事か?」 ……そうだよ! 圭ちゃんが親父さんと日本を出るだけなら泣くほどの事じゃない。寂しいけど、俺にとって遠距離恋愛なんてどうってことない。 でも違うんだ! 「別れるってさ…… 俺と別れるんだって……もう、決めたんだってさ」 俺がそう言うと、靖史は言葉を詰まらせた。 「わかってくれ……だって。そんなのわかるわけないじゃん! 俺と圭ちゃんが別れる? なんでだよ! 何で圭ちゃん勝手に別れるなんて決めてんの? ……俺、わかんねぇ」 涙が溢れるのも御構い無しに、思いの丈を靖史にぶち撒ける。靖史はそんな俺の頭に手を置き、黙って頷きながら優しく撫でてくれていた。 一頻り俺が吐き出した後、ティッシュの束を俺の顔に押し付けて靖史はボソっと俺に聞いた。 「なあ、陽介はちゃんと圭に理由聞いたのか? なんで別れようって思ったのか……」 「………… 」 俺、多分混乱して「何で?」しか言ってなかった気がする。圭ちゃん何か言ってた気もするけど、圭ちゃんの言葉が信じられなくて拒絶した。 「いや……ちゃんと聞けてない。俺、冷静じゃなかったから……話すら出来てない」 感情を吐き出したお陰か、気持ちも少し落ち着いてきた。 「圭はさ、本気でお前と別れたいって言ってるわけじゃないと思うな。あいつの事だから、きっと陽介のために……とか思って言ってるんだと思う。これは納得いくまでちゃんと話し合ったほうがいいぞ」 ……俺のため? 「なんだよ! ふざけんなよ! 俺のため? はあ? だっ…… 」 「だから! そう思うなら俺じゃなくてちゃんと圭に言え! 何でそういう決断をしたのか聞いて来いよ!」 靖史に怒鳴られ、ハッとする。 そうだよな。圭ちゃんから一方的に言われただけで、ちゃんと話できてない。 俺の気持ち…… きちんと話し合ってお互いが納得いくようにしたい。 「ごめん、そうだよな。ありがと靖史…… 俺、一旦帰るわ……」 「おう」とひと言だけ靖史は返事をすると、また読んでたマンガ本に視線を落とした。 さっきまでとは打って変わり、落ち着いた気持ちで家に帰る。 家に入ると、康介の部屋に修斗が来ていた。 二人してはしゃいで楽しそうにしている……いつの間に付き合ってんだ? こいつら。 一応声をかけてみたけど康介は慌てて付き合ってないと否定した。 なんだ、つまんね…… 「兄貴遅かったね。圭さん今日学校だろ?」 早速嫌な質問をぶつけてくる康介。相変わらずムカつく弟だ…… 「ちょっと遅刻して学校へ送って行ったらさ、ちょうど体育の時間でね。圭ちゃんのジャージ姿が可愛くて、ちょっと木陰に隠れて応援してきた」 ヘラヘラっと適当に誤魔化して、俺は自分の部屋に篭った。

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