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お願い
あの悪夢の告白の日から数日経ったけど圭ちゃんからは連絡もない。俺は一人考えたけど、やっぱり納得がいかなかった。
学校が終わり、下校しながら俺は圭ちゃんに電話をした。
数回のコールの後、少し元気のない圭ちゃんの「もしもし」が聞こえる。
「……圭ちゃん、もう一度ちゃんと話をさせて。俺、こないだ冷静に聞けなかったから……今からそっち行ってもいい?……泊まらないからさ……お願い」
少しの沈黙。
『いいよ、待ってるね』
そう言って電話はプツリと切れた──
それだけで、泣きたくなる。まだ俺たち別れたわけじゃないよな? まだ付き合ってるよな?
深呼吸して、気持ちを落ち着かせ圭ちゃんのマンションに向かった。
一応インターホンを押し、鍵を開けてもらって部屋に入る。リビングでコーヒーを淹れてる圭ちゃんに、なんて言ったらいいのか少し戸惑い「久しぶり……」と言ってソファに座った。
コーヒーを持った圭ちゃんが、俺の前の床にペタンと座りテーブルにコーヒーを置く。
「圭ちゃん?……俺たちまだ付き合ってるよな? 別れてないよね?」
圭ちゃんは目を合わさず、でもコクンと頷いた。
「……こないだはさ、びっくりしちゃってちゃんと話聞けなかった。ていうか、理解したくなくて…… ごめん。でも圭ちゃん、俺大丈夫だよ? 待ってられるし、戻って来られないんなら俺、時間かかっても圭ちゃんのとこ行くし……」
「それがダメなんだよ。陽介は優しいから、いくらでも俺の事待っててくれる……俺のために時間を無駄にさせたくないから。帰ってこられるかどうなるかもわからないのに、俺なんかに縛られるなんて絶対ダメだ……」
やっぱりだ!
圭ちゃん、俺の事を思って別れるって言ってんだ。
「なぁ、それって俺の気持ちは? 初めて出会って恋して、やっと両思いになれて……どれだけ俺が圭ちゃんの事を好きで、お互いの気持ちを大事に思ってるのかわからない?……そんな圭ちゃんの一方的な考え、俺には通じないよ。俺のために別れるって言うなら、それは違う」
俺の目を見つめる圭ちゃんに、俺は両手を差し出し「こっちに来て……」と圭ちゃんを呼んだ。
「ちゃんと顔、見せて……俺は別れないよ。ちゃんと納得いくように話してよ」
そう言うと、圭ちゃんは口を真一文字に結び、目を潤ませて俺の胸に顔を埋めた。
「………… 」
俺は黙って圭ちゃんの頭を優しく撫で、何か話してくれるのを待った。しばらくすると、圭ちゃんは俺の胸に顔を埋めたままぽつりぽつりと話し始める。
「やっぱり、もう付き合えないよ。陽介わかって……陽介のために別れるって言ってるんじゃない……俺がダメなんだ。俺が陽介に甘えてしまうのが許せないんだ。俺のために陽介の大切な時間を無駄にさせたくない」
顔を上げ、泣きそうな顔で俺を見つめる。
「俺のために、別れて下さい……」
「 ………… 」
そうなんだよな。
圭ちゃん、頑固だから……
多分もう俺が何を言っても考えは変わらない。
辛いけど、しょうがないのかもしれない。
「……わかったよ。ごめんね、駄々こねて……でもさ、でも……別れるのはまだ。圭ちゃんが日本にいる間……親父さんのとこに帰るまでの間はさ……今まで通り恋人同士でいてよ。お願い。圭ちゃんがまだここにいる間だけでも一緒にいさせて……ください」
俺は溢れそうになる涙を堪えて圭ちゃんにお願いした。
……だって、まだ目の前に圭ちゃんいるのに別れるなんて、俺には絶対無理だから。
圭ちゃんの考えは変わらない。
だから、せめて一緒にいる間だけでも恋人同士でいさせて……
でもね、圭ちゃん。圭ちゃんがアメリカに帰ってしまっても、俺はずっと待ってるから。
それは俺の勝手だから……
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