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圭の気持ち
親父が進路の事で時間を削って日本に来た。
中学の時に日本に来た時約束した事…… 俺は忘れていたわけじゃない。親父と話せばまだこれからもここにいられると思ってたんだ。
……甘かった。
俺の親父は世界で活躍するギタリスト、坂上泰牙。そんな親父の元で俺は小さい頃から音楽のある生活をしていた。物心ついた頃には親父と一緒にツアーをまわったり、一緒に演奏したり楽しかった。でも自分の技術も上達して、一人でも注目されるようになってきてからは「泰牙の息子」として見られるのが嫌で嫌で堪らなかった。俺は親父から逃げたい一心で必死に説得をして一人日本に来た。
親父の元から離れて、泰牙の息子だとわからない場所で自分の音楽を……仲間を見つけてやってみたかった。親父は俺とずっと一緒に音楽活動をするのが夢だと言って、高校を卒業する頃には戻ってくるように…… それを条件に日本へ行くことを認めてくれた。
こっちに来てからは友達とバンドを組んで、そこそこ地元で人気も得て、楽しく活動をしていたけど……親父からしてみたら単なる子どもの遊び。
確かにそうだ──
最初に一緒に活動をしていた透も受験のためにバンドをやめた。そう、これは別にいいんだ。日常の楽しみ、趣味でしかなかったんだろう。靖史は高校を卒業したら実家の酒屋の手伝いをすると言っている。バンド活動は楽しいからこれまで通り続けてもいい……ってスタンス。
周と修斗はどうすんだろうな。
俺たちは楽しくバンド活動をしてるけどただそれだけで、将来はどうするかとかは何も話してない。俺も何となく……漠然と音楽を続けると思っているだけで、正直なところあいつらに真剣に将来をどうするのかなんて聞くことが出来なかった。
本当はずっと一緒にバンドを続けたい…… 音楽活動だけで生活できるようになりたい。俺はそう思ってるけど、他の奴らとの温度差も感じているから、聞いたところで、進学するとか就職するとか……それだけならまだしもバンドなんて趣味のひとつ、 なんて言われたらやっぱりショックかもしれない。それが怖くて踏み込んで聞けなかった。
自分がいけないんだ……
ずっと中途半端で逃げてたのが事実。
靖史には正直に話した。進路の事を聞かれたから……
「どうした? 何か言い辛い事でもあるのか?」
何も言ってないのに、靖史はそういう風に俺を心配してくれる。靖史はいつもなんでもお見通しって顔をして、兄貴みたいな存在だ。
「……多分、てかもう決まってる事なんだけどさ、俺……卒業したら親父の所に戻る事になるから」
「そうか。バンドと……陽介はどうすんだ?」
「D-ASCH は、俺は抜けるよ……」
少し難しい顔をした靖史が溜息を吐いた。
「おまえいなくちゃダメだろ? 周と修斗は納得しないぞ……」
「そう言ったって、俺アメリカ行くんだから一緒には続けらんねえだろ?」
靖史が呆れたように笑う。
「戻ってくるつもりなんだろ? 待ってるよ。また一緒にやろうぜ」
それは凄く嬉しいことだけど……俺は簡単に「うん」とは言えない。
いつ戻れるかわからないんだ。こいつらを俺のためにずっと待たせるような事は絶対に出来ない。戻るとしたら、その時は俺は親父から離れて本気で音楽をやるつもりの時。
そりゃ、みんなと同じ志で続けられれば嬉しいけど……俺からそれを要求するわけにはいかないから。
「いや、いつ戻れるかも、そもそも戻ってこられるかもわからないんだ」
待っててもらっても困るから……
「俺、抜けるって言ったけどさ……俺ら卒業したら解散したい」
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