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この先の可能性

「なんだよそれ! いきなり乱暴だな。なんでバンド解散ってなる?」 靖史が笑う。 「だって! そうするしかないだろ? 俺はいつ戻れるかもわかんねぇんだぞ? ……あいつらだってこの先色々あんだろうが! いいんだよこれで……」 「きっと周も修斗も怒るんじゃね? とくに周な。お前のこと大好きだから納得させんの大変だぞきっと」 「………… 」 まぁ……そうなるよな。 でも好きなようにしてほしい。 ……陽介も。 「やっぱりさ、ダメだよ。俺がアメリカ行ってからでもいいから解散してくれ。みんなに待ってられるの、俺がダメだ……いつになるかわからないけど、俺が日本に戻る時は本気で音楽やる。そん時また会えるといいな…… 」 そう言うと、靖史は黙って頷いてくれた。 「いくら俺から言ったって、圭の中ではもう決まってんだろ? おまえ頑固だもんな。わかったよ。自分の思うようにしろ……俺らも好きにするからこっちのことは気にすんな。……安心しろ、圭のことなんか俺ら待たねぇからさ」 靖史に言われて、少しだけホッとした。 陽介は…… 陽介の事を考えるだけで、胸がギュッと締め付けられる。 どんな言い方をしたって、傷付けてしまう。 俺が親父のところへ行くと言ったら、あいつは100%待ってると言うだろう。待ってても俺が戻って来なければ、自分から迎えに行くと言うだろう。 そんな陽介に甘えるわけにはいかない。 「陽介には話したのか? 相談した?」 靖史が聞くから、俺は黙って首を振る。 「なぁ、俺なんかより先に陽介に話すべきだったんじゃねぇの? 遠距離になるんだからさ……」 ……遠距離。 「そうだな。陽介にはちゃんと話さないといけないよな……」 親父と音楽をやりながら、 俺はもう一度ちゃんと親父を説得して、自分の力で歩いていきたい。 いつになるかわからないけど、もう一度ここに戻って来られた時…… 俺たちは一体どうなってんだろうな。 陽介は高校卒業して、進学すんのかな……? どうするんだろう。 そういや陽介と進路の話、全くしてなかった……俺がその話を避けていたから。 「陽介は卒業したらどうすんだろう?」 そう呟くと靖史は眉を上げる。 「なんだよ、お前ら進路の話とかしてねえの?」 「してねぇな、全然」 靖史が呆れて溜息を吐いた。 「そういうのって大事なことなんじゃねぇの? 俺だって由香と話したぜ? 由香は短大、俺は実家の酒屋の手伝い」 わかってる。 普通はそうだよな。お互い大切ならちゃんとこういうことも話し合うんだ。 好き合って付き合ってもいれば、この先どうすんだとか結婚すんのかだとか、子供は何人欲しいだとか……そんな話も浮かれながら楽しくするもんだよな。 俺がいなかったら、陽介はもしかしたらいずれは他の女を好きになって、結婚もして子だってできて親孝行とかしちゃうのかもしれない。 色んな可能性があるのに、帰ってくるかもわからない俺の事を待たせるなんて……俺のために無駄な時間を過ごさせるなんて。 何度考えても絶対そんな事はさせられないと思ってしまう。陽介のことが大切だから。誰よりも大好きだから……だからこそ、俺は陽介を縛り付けるようなことはしたくない。 「靖史ごめんな、周と修斗にはバンドの事俺からちゃんと話すから……もう少し内緒にしててくれないかな。あと陽介の事も……」 俺はそれだけを靖史に伝えた。

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