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悠さん

数組の客が入れ替わり、相変わらず暇な店内。 俺が来た時からいると思われる高坂は、まだテーブルにいる。 いつまでいんだよ…… 高坂は何やら書類をテーブルに広げ、仕事を始めていた。 「陽介くん、コーヒーお代わり頂戴」 「………… 」 手招きされ呼ばれて行くと追加のコーヒーを頼まれてしまった。さっさと帰ればいいのに…… 俺は無言で注文を追加し、コーヒーを作る。 高坂がこんなに長い時間居座るのなんて珍しい。 時計をチラッと見ながら、淹れたてのコーヒーを須藤に託し俺は休憩に入った。 何か食べるかな…… たいして腹は減ってなかったけど、ここに来てオーナーや高坂に顔色悪いだのやつれただの言われて、流石に自分でも不安になる。 キッチンにサンドイッチを頼んで一つだけ作ってもらった。 無理矢理サンドイッチを流し込み、休憩を終えてまたホールに戻る。 するとすぐに須藤が寄ってきた。 「高坂様が、陽介さんの上がり時間聞いてきたので答えておきました」 コソッと俺にそう伝える。何教えちまってんだよ…… 「高坂に'様'なんて付けなくていいから」 「いや、一応お客様だし……」 まぁそうなんだけどさ。 なんで俺の上がり時間? しかもまだ居るし…… 高坂と目が合うと、また手招きされ呼ばれてしまった。 「なんだよ……まだいんの?」 「陽介くん、つれないなぁ。もうじき上がるんだろ? この後、僕の夕飯に付き合ってよ」 ……はぁ? 「何でだよ。嫌だね。さっき休憩で食ったし」 高坂が少しだけ怖い顔で俺をジッと見る。 「だめ! どうせパンとか少しかじっただけだろ?いいから僕の夕飯に付き合いなさい」 半ば強引に、バイト終わりに高坂と飯に行く羽目になってしまった。 きっと俺の状態を心配してんだろうな。余計なお世話だっつうの。 バイトを終え、店の外に出ると本当に高坂が待っていた。 「マジかよ…… 」 「ほら、行くぞ 」 ここまできちゃしょうがない。俺は観念して高坂についていった。 しばらく会話もなく歩き、連れてこられたのは一軒のバー。 ……こんなとこで飯なんか食えんのか? 少し疑問に思いながら、高坂の後について店内に入った。 薄暗い店内、客も少なく疎ら…… カウンター内に背の高いモデル風な男が一人立っている。 店に入った高坂にすぐに気が付き、その男が親しい雰囲気で声をかけてきた。 「陸也いらっしゃい……」 高坂と俺を交互に見て、カウンターから微笑んでくる。 俺をカウンターに座るよう促し、高坂も俺の隣に座った。 「悠、悪いんだけど何か腹に優しいもん作ってよ。簡単なのでいいからさ」 高坂は悠というその男にそう注文をした。 「ん? 別に構わないけど……どうした? 体調悪いのか?」 「ああ、俺じゃなくてこいつね。陽介くんに」 悠と呼ばれる男にジッと見つめられ、少しドキッとしてしまう。 「あの……陽介って言います。よろしく」 一応自己紹介。無駄にイケメンに囲まれてちょっと居心地が悪い。 「陽介君、可愛い顔してるね。でもうん、ほんと顔色悪いな……俺は悠ね。よろしく」 そう言う悠さんに笑顔で頬を撫でられた。 「おい、一応うちの学校の生徒だから。変な目で見んなよ。それと未成年だから酒はダメ」 高坂が悠さんにそう言うと悠さんは驚いた顔をした。 「あれあれ? 浮気じゃないよね? 大丈夫? そんなに手が早かったっけ?」 ケラケラと笑う悠さんに、高坂は「冗談やめろ。 黙っとけ」と言って笑った。

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