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あたたかい
……てかさ、さっきから違和感あるんだけど、高坂の喋り方。
自分の事を「俺」とか言ってるし、今まで見ていた高坂の印象と全然違う。
「ねえ、さっきまでと先生雰囲気ちがくね?」
思わず高坂にそう聞いてしまった。学校では「僕」って言ってなかったか? いつもうさん臭えとは思ってたけど、こっちが本当の姿なんだろうな。
「もうここからは俺、プライベートだから」
高坂は俺の言いたいことがわかったのか、そう言って笑った。
「ふぅん、いつもは猫被ってんだね。そういうの疲れない?」
「全然。あっちの方がみんな話しやすいでしょ?俺生徒思いの、いい先生だから」
自分で言うなよ……
そんな事を言ってるうちに、悠さんが美味しそうなおじやを出してくれた。
「何これ、美味そう…… 」
俺は悠さんが作ってくれた洋風なおじやをゆっくりと頂いた。
ちゃんと味わって、食べる事を意識したのは久しぶりかも。
俺が食べてる間、悠さんは冗談だか本気だかわからないけど、しきりに俺の事をかっこいいだの色っぽいだの褒めちぎっていた。
そんな悠さんに高坂はツッコミを入れてる。
……高坂が全然別人で、なんだか調子狂うな。
だけど、ちょっとだけ元気出たかも。
この温かくて優しいおじやが、体の中からじんわりと温めてくれて俺の心も優しさに包まれていく、そんな感じがした。
「ごちそうさまでした。本当美味しかった! 元気出ました」
素直にお礼を言うと、悠さんは満足そうに微笑んだ。
「悠、奥の席借りるぞ。陽介くんにコーヒーと、俺はいつもの……持ってきて」
そう言った高坂に、奥の席に連れて行かれ、俺らはテーブルに斜に座る。
「先生ありがと。悠さんの飯、めっちゃ美味かった」
お礼を言うと、高坂は少しだけ微笑んでから、急に真面目な顔に変わった。
「陽介くん、また何か悩んでんだろ? 俺でよければ相談乗るぞ……」
やっぱりな……
心配してくれるのはありがたいと思うけど、こういうのは言いにくい。
だって自分でも認めたくないのに、それを言葉にするのって凄くしんどくて辛いんだ……
「……俺、先生のこと嫌いなのにそんな風に心配してくれなくていいから」
ちょっとだけ強がってそう言ってみるも、高坂に鼻で笑われてしまった。
「嫌いとか言っちゃって、しっかり餌付けされてんじゃん。男は胃袋掴まれちゃおしまいだよ」
「はぁ? 餌付けって、おじや作ってくれたの悠さんじゃんか。お前じゃねぇし……」
少し間が空き、高坂が静かに話し出した。
「でもさ、陽介くんももうじき卒業だな。あっという間だよね……入学式の頃が懐かしいなぁ」
「………… 」
「毎年さ、卒業式って正直俺は出席したくないんだよね。担任持ってるわけじゃないしただの保健医だし。なんかね、置いてかれる感が半端ないんだよ。みんなは新たな道に向かって巣立っていくのに俺は歳だけくってずっとこの場所から進めない……そんな気がしてね」
「ふうん……そういうもん?」
「でもね、それは本気で向き合う何かが俺には無かったからなんだって最近わかったんだよ。うん、俺はこれからは前に進める。大切なものが出来たから、俺も前に進むことが出来るんだ…… 」
……?
高坂、独り言かな?
途中から高坂の言ってる事がよくわからなかったけど、とりあえず「よかったね」と言っておいた。
「ねぇ、先生飯は? 食わねえの?」
そういえば俺は高坂の飯に付き合わされたんじゃなかったっけ? 俺だけ食ってこいつは何も食べてない事に気がついた。
「へ? いらない。腹減ってないもん」
「は? 夕飯付き合えって言ってたろうが!」
訳わかんね……
「いや、陽介くんにちゃんと食事してもらいたかっただけだから」
「………… 」
頼りたくなるから、そんな風に優しい態度見せんなよ……
俺はなんだか辛くなってきて下唇をギュッと噛んだ。
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