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みっともなくても
少しの沈黙……
「例えばさ……相手の事を思っての行動が、相手に辛い思いをさせてるってお互いわかってるのに、でもどうしようもなくて……それでも進まなきゃいけない時って……耐えるしかないよね?」
少しだけ……
少しだけ吐き出したくなり高坂に聞いてみた。
ジッと俺のことを見つめてる高坂が、フッと笑う。ちょっと馬鹿にされたような気がしてムッとしたら、それが伝わったのか高坂は慌てて首を振った。
「いやいや……人を思いやる方法はそれぞれだと思うけどな、俺は耐えられないからそういうのには頷けない」
「………… 」
「俺みたいに色んな事を諦めて生きてきた人間が不意に幸せを実感しちゃったら……もうそれを手放すことなんて出来ないんだよ。辛い思いをしてるのがわかってるのに耐える? そんなの無理だろ……少なくとも俺には絶対無理だわ。俺なら凄くみっともなくてもその幸せにどうにかしてしがみついて、足掻くだろうな」
酒のせいか、少し顔を赤くした高坂がそう言って笑った。
……なんか意外だった。
「好きな人、いるんだ?」
高坂に聞いてみる。
すると「いるよ。今ね、俺青春真っ只中」そう言って、はにかんだ。
「それにね、たとえば相手が別れてくれって言ったって、俺は別れてやらないよ……そんなの許さない。嫌われたって俺は情けなくしがみついてるんだろうな。それくらいカッコ悪い事も平気ですると思う」
「……先生、それちょっと怖えよ」
「だな!」
それくらい好きなんだからしょうがないだろと言ってげらげらと笑う高坂。
でも……考えさせられた。
みっともなくても、しがみつく……か。
俺には出来ないな。
圭ちゃんの決意を壊す事はできないよ。
「……陽介くん達みたいに若いうちはさ、好きな奴にみっともないとこなんて見せられないよね。どうしてもカッコつけたり遠慮しちゃう……それでもいいと思うよ。色んな経験をしてさ、それでわかっていくこともあるんだから。俺みたいに歳くってから気付くことだってあるし」
高坂がまた真面目な顔をして俺に言う。
「何があったのかは聞かないけど、自分の思うようにするといい。人の意見なんてどうだっていいんだ。後悔しないように……って言いたいところだけど、そんなの実際無理なんだからさ。後悔したっていいんだ。その先自分でしっかり歩いていければそれでいいと思うよ、俺はね」
「………… 」
「とにかくさ、自分で決めた行動に言い訳はしない。あと、ちゃんとご飯を食べて睡眠を取ること。本当思い詰めると体調崩すの……そこんとこは全然成長してないよね。これ以上心配させんなよ……」
不意に高坂の手が俺の頭に触れるから、思わず涙が溢れてしまった。
「ごめん………ありがと」
高坂はそれ以上は何も言わず、俺の涙が止まるまでただ頭を優しく撫でてくれた。
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