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陽介のデジカメ
明日の卒業式が終われば、すぐ次の日はライブ……
その三日後に俺はここから旅立つ。
この部屋は親戚に貸すと親父が言っていた。だから家具なんかはそのままで、俺は自分の最小限の荷物だけ持って出ていくことになっている。
途中まで纏めた荷物。
必要なさそうなものは邪魔なだけだから、どんどん捨てた──
なんとなしに部屋を歩く。
俺が料理をしてると、すぐにこのカウンターに寄ってきて俺の事をジッと見ていた陽介。
そうだ……
このキッチンで陽介に後ろから抱きしめられて、俺は陽介の事を意識したんだっけ。
愛おしい……好きなんだ……って。
初めて抱きしめられた時のこと。
初めてキスした時のこと。
初めて陽介に抱かれた時のこと……
喧嘩した時のこと……
部屋を見渡していると、いろんな事が蘇った。
別れを決めたのは俺なのに、あの時から陽介に抱かれる度にこのぬくもりを手離したくなくて涙が溢れていた。
陽介は優しいから……
そんな俺に気がつかないフリをしてくれた。
陽介は優しいから……
別れるって言いながらも、きっと待っていてくれる。
俺が戻ってくる時まで待っていてくれるといいな……なんて思ってしまう自分がいる。
……ごめんな陽介。どうしても甘えてしまう。
でも、待たなくていいから。
別の幸せを見つけたら、迷わずそっちに行ってくれ。
そうなる前に戻れるように、俺……頑張るからさ……
明日の卒業式の後は陽介が泊まりに来てくれる。
多分……いや、もうこれで最後。
もう陽介に甘えない。涙は見せない。
自分が決めた事だから。
前に進むんだ……
陽介に忘れられないうちに、ちゃんと迎えに来られるように、俺 頑張るから。
部屋を見渡す。
陽介と過ごしたこの部屋。自分が持ち出すものと残していくものとを整理をしていく。
しばらく開けていなかった棚の引き出し。開いてみたらそこにはデジカメが収まっていた。
……?
これ、陽介のデジカメだよな。
俺は手に取り中身を確認した。
「………… 」
そこには俺と陽介の思い出がたくさん詰まっていた。
バレンタインのティラミスの写真も入っていた。
俺が帰ってくる前に陽介がテーブルに用意してくれていた物。
いつの間に撮ったのか。
陽介の手作りなんて初めてだったから凄いびっくりしたんだ。しかも見た目もバッチリだし美味しかった。
嬉しくて泣きそうになったんだよな、あの時。
美味そうなティラミスの画面に俺は笑いかけ、自分の鞄にカメラをしまった。
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