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卒業式

今日の卒業式が終わったら、そのまま俺は圭ちゃんの家に泊まる。 二人で卒業のお祝い。そして新しい出発のため…… 卒業式はそれほど感動もしなかった。 なぜだか康介がボロ泣きしていてちょっと驚いたけど… 我が弟ながら、いい奴だよ康介は。感情移入しすぎだろ。 そういや純平も泣いてたな。 純平には圭ちゃんの事はすぐに話した。 こいつは俺が片思いをしてる頃から何気にずっと見守ってくれていたんだ。 俺の大事な親友。 「お互い好きなのに別れるなんてバカじゃねーの? 遠距離くらい頑張れよ!」 そう言って怒ってた。 でも違うんだ…… 別れるってのは建前で、俺は圭ちゃんの帰りを待つんだ。待ってるなんて圭ちゃんが知ったら負担になるだろう? 重荷になったら嫌だから…… そう言って純平は納得してくれたんだっけ。 教室で帰り支度していると純平に声をかけられる。 「なんで陽介が泣いてなくて俺が泣いてんだよ! ……大丈夫か? 俺の胸貸してやるから泣いてもいいんだぞ。俺と離れるの寂しいだろ?」 そう言って涙でグシャグシャな顔をして両手を広げた。 「そんな汚ねえ顔して……お前の胸なんて借りたくねえよ」 俺はグーでその貧相な胸をパンチした。 二人で笑い、卒業しても遊ぼう! と約束をして俺は純平と別れた。 外に出ると、下駄箱の所で周が立っているのに気が付いた。 「……周!」 俺が声をかけると、周まで泣きそうな顔をする。 「俺の事待っててくれたのか? とりあえずそこまで歩くか…… 」 歩きながら周と話した。 「陽介さん……今までありがとうございました。圭さん抜けても……俺らちゃんと圭さん待ってバンドも残しますから……これからも練習とか……見に来てください…… 」 なんだよ涙目になりやがって……周らしくない。 「俺こそありがとな。最後の最後に……嫌な思いさせちまってゴメン。俺らは大丈夫だから。圭ちゃんの事、笑顔で見送ってやってな……」 そう言うと、周の瞳から大粒の涙がポロっと溢れた。 「お前が泣くなよ。心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だよ……あ、ほら、竜太君達がこっち来るぞ」 俺は周の腕をポンと叩く。 竜太君に呼ばれ、周は慌てて涙を拭った。 竜太君や志音君にもお礼を言う。 情けない康介をよろしく頼むよ…… 本当…… 俺のまわりにはいい奴ばっかだ。 みんなありがとう。 俺はそのままみんなと別れ、圭ちゃんのマンションへ向かった。 インターホンを鳴らすとすぐに圭ちゃんの声がした。 「……なに? 陽介入ってこいよ」 オートロックを解除してもらい、俺は圭ちゃんの部屋に向かう。 合い鍵を使わなかったのは、もうすぐ俺は圭ちゃんの恋人じゃなくなるから…… そう思ったら、何となく使えなかった。 鍵も返さなきゃいけない。 玄関に入り、すぐに出迎えてくれた圭ちゃんに俺は鍵を手渡した。 圭ちゃんはキョトンとしたけどすぐに気が付き「ああ……」とひと言だけ呟いた。 圭ちゃんは、しばらく自分の手の中の鍵を見つめている。 「……入ってもいい?」 この時間が妙に長く感じられて、いたたまれなくなった俺は急かすように靴を脱ぎ、リビングへと向った。 「あ、ごめん…… 」 圭ちゃんに促され、俺はいつものリビングのソファーへ腰を下ろした。

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