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堪らなく愛おしい

「陽介……卒業おめでとう」 キッチンに入った圭ちゃんが俺にそう言う。 「……圭ちゃんも、卒業おめでとう」 俺も同じ事を圭ちゃんに言った。 「今日はね、卒業のお祝いで……ちょっとだけご馳走。陽介の好きな……煮込みハンバーグとカルパッ……チョ……抹茶のロールケーキも作った…んだ。よ……陽介に……喜んで貰いたくて………俺…… 」 小さな声で、途切れ途切れにまるで振り絞るような声で圭ちゃんは話す。でもすぐにその声は途切れてしまった。 「圭ちゃん……?」 キッチンの方を見ると、圭ちゃんが背中を向けて肩を震わせている。 「………… 」 泣いているんだとすぐにわかった。 なぁ…… 圭ちゃん、自分で決めたんだろ? 俺の事を思って、決断したんだろ? ………頑張れよ。 俺なら大丈夫だから。 俺は愛しいその華奢な背中を後ろから抱きしめた。 抱きしめる俺の腕に温かい雫が落ちる。 「圭ちゃん? 大丈夫だよ……俺なら大丈夫。泣かないで。笑って飯、食おう。ね?」 後ろから圭ちゃんの顔を覗き込んだ。 真っ赤な顔をして唇を噛み締めてる圭ちゃん。 俺はキスをしたいのをグッと堪える。 後ろから抱きしめたまま、圭ちゃんの柔らかな髪をそっと撫でた。 ……離したくねぇな、やっぱり。 俺のそんな思いを伝えられるわけもなく、ただそのまま黙って抱きしめていると俺の腕の中から圭ちゃんがスルリと抜け出した。 「……ごめんね、陽介。ちょっと感傷的になっちゃった。うん……大丈夫。ぎゅっとしてくれて……嬉しかった」 涙目ではにかむ圭ちゃんが堪らなく愛おしかった。 その後は何事も無かったかのように調理の仕上げをして、テーブルにはあっという間にご馳走が並んだ。 「……乾杯 」 グラスを軽く合わせ、二人で最後の食事。 いや、最後じゃないよ。 ね?圭ちゃんもそう思ってるよね。 また次に一緒に食事するときはさ、俺もご馳走作れるようにしておくから……練習しておくから。 食事の後、テレビを見ながら寛ぐ。いつものソファでいつもの体勢。圭ちゃんが軽く俺に寄りかかり体を預ける。 俺は少しだけ…… 少しだけ、わからないくらいに頭を寄せた。 テレビの内容なんて、全然頭に入って来ないや。 ぼんやりとテレビを眺め、風呂の準備が出来たから俺らは順番に風呂へ入った。 先に圭ちゃんが入って、その次に俺…… 湯船に深く浸かり、俺は湯面に顔をつける。 明日は早目に帰ろう。 一緒にいればいるほど辛くなる。

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