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揺らぐ圭の心
卒業式が終わり、俺は急いで帰宅した。
今日は陽介が泊まりに来るんだ。
きっと泊まってくれるのは今日が最後。
卒業のお祝いと……
お別れの意味を込めて、俺は陽介の好きな料理を作るんだ。
何時頃に来るのかわからなかったから、できるだけ急いで準備をした。殆どの支度が終わった頃、インターホンが鳴った。
「あれ?」
陽介なら合鍵で勝手に入ってくるはず……
誰だろう? でも陽介かな? と思い、出てみるとやっぱり陽介だった。
「……なに? 陽介入ってこいよ 」
オートロックを解除する。
陽介が玄関先まで来ると、俺に合い鍵を手渡した。
合い鍵を使わなかったのは……そっか、もう恋人同士じゃなくなるからか。
しばらく俺は手の中の合い鍵を見つめていた。
え……?
心の中が、嫌だって叫んでる……
突然に湧いた激しい感情。この鍵を陽介に投げつけたくなる衝動に駆られてしまった。
「……入ってもいい?」
しばらくぼんやりしてしまった俺に向かって陽介がポツリと言い、靴を脱ぐ。
「あ、ごめん…… 」
声の震えがわかってしまっただろうか……
平常心を装いながら、俺は陽介をリビングに通した。
もう覚悟を決めて、大丈夫な筈だったのに。
陽介に会って、合い鍵を返されて……自分がこんなにも動揺するとは思わなかった。
どうしよう……苦しい。
俺、大丈夫かな。
キッチンに入り料理を運ぶ準備をしながら、俺は陽介に「卒業おめでとう」と言った。勿論陽介も俺に同じことを言う。
「今日はね、卒業のお祝いで……ちょっとだけご馳走。陽介の好きな……煮込みハンバーグとカルパッ……チョ……抹茶のロールケーキも作った…んだ。よ……陽介に……喜んで貰いたくて………俺…… 」
ヤバい……どうしたって涙が溢れる。
陽介の前で泣くなんて最悪だ俺。
焦っていると、いつの間にか背後に来ていた陽介に抱きしめられた。
「圭ちゃん? 大丈夫だよ……俺なら大丈夫。泣かないで。笑って飯、食おう。ね?」
後ろから、俺の大好きな優しい声で陽介が囁く。
そうだよ陽介の言う通りだ。
俺だっていつも通りに陽介と楽しく食事するつもりだったんだ。
ごめん……陽介。
陽介が頭を撫でてくれる。愛おしそうに俺の髪を弄る陽介……
ありがとう。ちょっと落ち着いた……かな。
「……ごめんね、陽介。ちょっと感傷的になっちゃった。うん……大丈夫。ぎゅっとしてくれて……嬉しかった」
なんとか涙を堪え、俺は陽介に笑いかけながらその愛しい腕から逃げるようにして離れた。
本当はもっと抱きしめてもらいたい……
ここに来て決意が揺らぐ。
既にこんなにも揺らいでしまってるなんて…
辛い──
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