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最後まで優しい

結局泣いているのがバレてしまった。 陽介に優しく抱き起こされ、もう溢れる涙が止まらない…… 「………ご、ごめん……ごめんね……俺、なに泣いてんだ……よな。 ごめん……ほんと……はは……」 どうしようもなく溢れてくる涙を拭いながら謝っていると、陽介はギュッと抱きしめてくれた。 「決めたんだろ? 圭ちゃん、頑張れよ……今日は俺に抱かれるんだろ? 顔、隠してたら圭ちゃんの気持ちいい顔、見えないじゃんか……」 優しい笑顔…… ずっと側にいたい。 「どうする?……今日はやめとく?……いいよ、俺はどっちでも…… 」 陽介が俺の前髪を指先でかきあげ、笑顔で優しく額にキスを落とした。 きっと陽介だって辛いはずなんだ。 俺は陽介の顔を見ながら小さく首を振った。 「大丈夫。して……お願い……いっぱい俺の事、愛して…… 」 陽介の首にしがみついて俺はキスをする。 「圭ちゃん……大好きだよ。愛してる…… 」 また目頭が熱くなってしまった。 陽介の優しさに縋りたくなる。 されるがまま体を預けると、ゆっくりとまた陽介が俺の中に入ってきた。 「ん……あっ……あ……んんっ…… 」 さっきとは違い、陽介は優しく優しく俺の中を掻き回す。 「陽介……陽介っ…… 」 俺たちはお互いを確認し合うかのように、何度も何度も……ゆっくりと丁寧に体を重ねた。 陽介は終始優しく、俺に愛の言葉をかけてくれた。 俺がバカみたいに泣いてしまったから、きっと陽介はずっと笑っていてくれたんだと思う…… どれだけ優しいんだ、陽介は。 それに比べて俺は…… 弱くてごめん。 そのまま俺は陽介の胸に抱かれて眠った。 朝起きるといるはずのそこに陽介の姿がなく、俺は慌ててベッドから飛び起きた。 待って……まだ…… 寝室を出てリビングを見ると、いつものように陽介がソファに座っていた。 心の底からホッとして、俺は一人笑ってしまう。 ……どんだけ慌ててんだよ、俺。 「おはよう……陽介今日は早いね」 「おはよ。うん、圭ちゃん起きてきたら帰ろうと思ってさ」 「そっか」 言葉が出てこない。 何か話してないと陽介が帰っちゃう…… でも、いいのかこれで。 一緒にいればいるほど辛くなるから…… 「圭ちゃん……こっち来て」 ソファに座ったままの陽介に突然呼ばれ、俺は隣に座った。 ……ドキドキする。 陽介が隣に座る俺の腰に両手を回し俺を見る。 黙ったまま間近で顔を見られ、思わず目をそらしてしまった。 「圭ちゃん、俺の事ちゃんと見て……」 おどおどしてしまいながら陽介の顔を見ると、急にギュッと抱きしめられる。 「ちょっ……何? 陽介……苦しい 」 「圭ちゃん……俺、本当に待たなくていいの? 大丈夫だよ……いつまででも待ってられるよ?」 優しい声。 「……ううん、待たなくていい……大丈夫。ありがとう」 「そっか。わかった……」 わかってるよ。 そんな事言ったってお前、俺の事待つんだろ? ごめん…… 陽介に縋る最後のチャンスをくれたのに、やっぱり素直に待っててとは言えなかった。 でも、陽介が俺以外の幸せを見つけてしまう前に絶対に戻ってくる…… 戻るから。 「日本発つのは明後日だっけ?」 抱きしめていた腕を離し、陽介が俺に聞く。 「うん……明々後日。三日後だよ」 「そっかわかった。見送り……」 「いらないから!……見送りはいらない」 見送りなんかされたら辛すぎる。 これでお別れでいいんだ。 「わかった。圭ちゃん……じゃ、俺そろそろ帰るわ。今夜のライブ、行くからね……」 「……うん」 陽介が俺の事を見つめる。 「……圭ちゃん。最後にキスしてもいい?」 俺の返事を待たずに、陽介は甘くて切ないキスをした。 「圭ちゃん、頑張れよ! 愛してる……」 「うん……ありがとう」 陽介が帰ってしまったこの部屋が妙に広く感じる。 いっぱい泣いてしまったからかな? もう涙は出てこなかった。 俺の大好きな人は最後まで優しかった。 陽介……ありがとう。 俺、頑張れそうだよ。

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