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時間が経てば

圭ちゃんが不安定で見ていて辛かった…… きっと最初に俺が合い鍵を返したのがいけなかったんだ。 緊張の糸が切れたように、泣きっぱなしだった圭ちゃん。 言わなくても、離れたくないって伝わってきて堪らなく辛かった。 最後に僅かな期待を込めて俺は聞いた。 「圭ちゃん……俺、本当に待たなくていいの? 大丈夫だよ……いつまででも待ってられるよ?」 ここで「別れる」という選択をしなくても、遠距離でもお互い連絡を取り合って声を聞いて励ましあったっていいじゃないか…… 「……ううん、待たなくていい……大丈夫。ありがとう」 別の幸せを見つけたら迷わずそっちへ行け── そう圭ちゃんは思ってるんだろうけど、俺には圭ちゃん以外の幸せなんてありえないから。 それは圭ちゃんだって同じはず。 でもしょうがない……わかったよ。 もう俺も決心するよ。 「そっか。わかった……」 俺は抱きしめていた腕を緩め、圭ちゃんから離れる。 今夜のライブで最後。 もう会わない。 圭ちゃんが発つ日に見送りを、って思ったけどダメだと言われた。 そうだよな。辛いもんな…… 俺も多分、笑顔でお別れは出来そうにないや。 今夜のライブには行く事を伝え、最後にキスをした。 「圭ちゃん、頑張れよ! 愛してる……」 心を込めて、愛しい人にエールを送る。 俺を見つめる圭ちゃんの顔は、もう泣き顔なんかじゃなかった。 ……愛してるよ、圭ちゃん。これからもずっと変わらない。 一旦俺は家に帰った。 誰にも顔を合わさないように一目散に自室へ入りベッドへ潜り込む。 ずっと抑えていた涙が溢れた。 俺は気の済むまで声を殺して泣き続けた。 今日から俺と圭ちゃんは他人。でも俺は待ち続けるんだ。 大丈夫。 今泣いてるのは寂しいから。 時間が経てば寂しさも薄れるはず。 頑張れ……俺! 今夜は圭ちゃん達の最後のライブがある。 ちゃんと見届けるんだ。 少しだけ休んで……支度をしよう。 昨晩一睡も出来なかった俺は、ここで少しだけ眠りについた。

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