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ラストステージ

思いの外ぐっすりと眠ってしまい、気がついたらかなりの時間が経ってしまっていた。俺は驚き慌てて支度をしてライブハウスに向かった。 ライブハウスに到着すると、すでに圭ちゃん達のステージが始まっていた。俺はいつものように一番後ろの壁に寄りかかって圭ちゃんを見る。 元気いっぱいに駆け回り歌う圭ちゃんの視線が俺に向いた。 ニコッと微笑んでくれる。 いつもの圭ちゃん…… 遅れてごめんね。 数曲終わると突然兄さんがステージに上がり、まわりが騒めく。 なんだろう? 半ば強引に圭ちゃんからマイクを取り、圭ちゃんが今夜で最後だと言うことを兄さんは告げた。 多分圭ちゃんは黙ってるつもりだったはず…… でも、そうだよな。 これだけのファンもいて、仲間もいるのに黙っていなくなるのはどうかと思うよ。 「……言うなって言われたけどさ、みんなに黙っていなくなるのはダメだろ圭。ごめんな。俺言っちゃったぞ」 兄さんが笑ってそう言う。全くその通りだよ。兄さんは はにかんで笑い圭ちゃんの肩を小突いてる。 客席からも声が上がる。 ほら…… 早く戻ってこいよ、頑張れよ、と客席から次々に圭ちゃんに声援が上がった。みんな詳しい事は分からないけど、でも圭ちゃんの事が好きだから応援の声が次々に上がるんだ。 みんなが圭ちゃんを応援してるぞ。頑張れよ。また会えるのを信じてるからね。 少しすると今度は周がマイクを取り、スタンドに置いた。 靖史に目配せをしギターを弾き始め、それに合わせ修斗も靖史も演奏を始める。 一気に会場は静まり返り、静かな曲調で周が歌い出す…… 仲間との別れと再会を誓う曲。周の歌声に泣きそうになった。 少し短いその一曲が終わると、大歓声があがった。 圭ちゃんがはにかみながら周と抱き合う。 みんなからの拍手の後に、D-ASCH の最後の曲が始まった。 これで見納め…… 今日もカッコよかったよ、圭ちゃん。 俺は最後の曲が終わる前にライブハウスから外に出た。 この後の打ち上げとか……無理だ。 きっと俺、場の雰囲気を壊してしまう。そう思って俺は一人帰宅した。 一応圭ちゃんにはメールを入れておいた。 『今日もかっこよかったよ。打ち上げには出ないで帰るね。辛くなるから。弱虫でごめんね』 圭ちゃんの記憶に残る最後の俺の顔が、泣き顔なんて……そんなの絶対嫌だから。 ごめんね圭ちゃん。 家に帰り、またベッドに横になる。 そこら辺に適当に放ったジャケットのポケットから、メールの着信が聞こえた。 圭ちゃんからかな?と思ったけど、そのメッセージは靖史からのものだった。 『16:40発の飛行機だってさ』 そのひと言だけ。 来るなと言われたけど、やっぱり見送りたいと思った。 俺は少し考え、靖史に電話をした。 呼び出し音の後、靖史の陽気な声が響いた。 『はいはい!……ちょっとまってね。ここうるさいからさ』 まわりが随分と賑やかだったけど、少し待ったら静かになる。 『お待たせ。どうした?』 「……メール、ありがと」 『あぁ、それな。見送りに来んなって言われたけどさ、飛行機発つ時間くらい教えろよっつったら教えてくれた。どうする? 空港まで行きたいんだろ? 圭が発つ日、俺も付き合うよ』 俺まだ何も言ってないんだけどな……さすが靖史、俺の言いたいことわかってくれてる。 「うん……俺も、来るなって言われたから見送りには行かないつもりでいたけど……自分にけじめつけるためにさ、やっぱり見届けたいなって思って。でも圭ちゃんにはわからないように、行くわ……」 俺の気持ちを察してくれて、いつもさり気なく手を差し伸べてくれる。 靖史……ありがとな。

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