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またな……

最後のライブ── いつもなら始まる前には側にいてくれる陽介が、今日はいない。 陽介と会えないまま ステージが始まり、途中からいつもの場所に佇む陽介と目が合った。 ……よかった、来てくれた。 俺がいなくなる事は内緒にしてくれと兄さんに頼んでおいたのに、ライブの途中でみんなの前で言われてしまった。 でもやっぱりこれはしょうがないよな。 ここにいるみんなが、事情も知らないくせに俺のことを応援してくれる。 ありがとう。 俺はこんなにも応援してくれる仲間がいる。 俺は幸せ者だ…… 周、修斗、靖史が俺のために曲をくれた。 ありがとう。 泣きそうになるのを堪えて、俺は最後の曲を歌った。 そして、今日のライブも大盛り上がりで終わった。 後はもう…… 旅立つ準備をするだけ。 今日はいい天気だ── ベランダから部屋に戻り、俺は部屋を見渡した。 もうこの部屋には戻れない。 沢山の思い出…… 陽介と、みんなとの思い出の場所。 これでもう見納め。 俺はバッグを背負い玄関を出る。 エレベーターでエントランスまで降りると見慣れた顔が俺を待っていた。 周と竜太君、康介君に修斗……それと志音君。 見送りはいらないって言ったのに。 一人一人俺に感謝の言葉と再会を約束する言葉をかけてくれる。 康介君なんかぐずぐずに泣きっぱなしで、何を言ってるのかよくわからなかったけど、気持ちは凄く伝わってきて本当に嬉しかった。皆んなと抱き合い「また会おうな!」と笑顔で話した。 そんな中、竜太君が泣きそうな顔をして俺に手紙を差し出した。 迷惑もしれないけど、言いたいことちゃんと伝えられないと思ったから……と手紙に書いてくれたらしい。 竜太君らしいや。そんな気持ちが凄く嬉しい。 「男から手紙なんて初めてもらったよ。竜太君ありがとな。後でゆっくり読ませてもらうね」 そう言って俺はその手紙をバッグにしまった。 「……そろそろ行くわ。わざわざ来てくれてありがとう」 呼んでいたタクシーがマンションの前に到着したから、俺はみんなに別れを告げてタクシーに乗り込む。 本当にありがとう。 俺はみんなが見えなくなるまでタクシーの中から手を振った。 空港に着き、ひとり搭乗手続きを済ませる。 中学二年の時、一人で日本に来た時は期待に胸を膨らませ、わくわくしてたっけ…… つい昨日のことのようだな。 あの時はこんなに大切な出会いがあるとは思ってもいなかった。 ……やっぱり寂しい。 なんとなく陽介の姿を目で探す。 俺が見送りはいらないって言ったから…… こんな所にいるわけがない。いたところで、また辛くなるだけだ。 会わなくていいんだ。 ちゃんとお別れは……したから大丈夫。 そう思って俺は陽介の姿を探すのをやめた。 飛行機に乗り込み、席に座るとバッグの中から竜太君から貰った手紙を取り出す。 封を開け便箋を開くと、几帳面に並んだ丁寧に書かれた文字が並んでいた。 竜太君らしい。 気持ちが解れる…… 俺は落ち着いた気持ちで手紙を読み始めた。 『圭さん、僕は高校に入学するまで人と接することが出来ない人間でした。今思うととてもつまらない人間だったと思います。でも周さんと知り合い、思い合う事を知り、そしてたくさんの人と触れ合っていろんな感情を知ることができました。 そんな僕は圭さんと陽介さんが羨ましかった。憧れだった。お互いの事をちゃんと分かり合えていて、信頼し合ってる。2人の時に見せる何とも言えない空気感。僕達も圭さん達みたいな関係になりたいっていつも思ってました。 余計な事だとわかってます。2人で話し合って決めた事だって事もわかってます。 でも言わせてください。 陽介さんは圭さんの事、待ってますよ。いつまでも。 陽介さんがそう言ったわけじゃないけど、見てればわかります。だから早く帰ってきてくださいね。また顔を見せてくださいね。 さよならなんて僕は言いませんからね。また会える日まで…少しのお別れです。僕もずっと待ってます。 渡瀬竜太』 大丈夫…… 俺だってわかってるよ。 ありがとな、竜太君。 そうだな。また会える日まで少しのお別れ。 俺は竜太君からの手紙をまた大切にバッグにしまった。 こうして今日、俺は日本を発った。 またな……陽介。

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