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第4話
*勇真サイド*
俺は一息先に家に帰り、あいつのベッドに堂々と腰掛けてあいつが帰ってくるのを待っていた。
目的は決まっている。
このラブレターを投げつけるためだ。
なんで、あいつのせいでこんな思いしなくちゃいけないんだよ。
ガチャリとドアノブを開く音が耳に入った。
来やがった!
俺はすぐに投げつけられるようにラブレターを構えた。
ドアが少しずつ開くとやつの体も少しずつ見えてくる。
そして、全身をその目で捉えた時とりゃぁーと声を上げラブレターをブーメランのように飛ばした。
「うおっ!」
と声を上げたと同時に顔の目の前に来たそれを白刃取りのように受け止める。
「てめ、何すんだよ。目に入ったら危なねぇだろっ!」
「何もかもてめぇが悪いんだ・・・・・・」
これでもかというくらい黒金を睨み付けるが、同じように睨み返し、俺との距離を詰めてきた。
「ホントにお前は・・・・・・その目、いつも気にくわないって思ってた・・・・・・」
ぼぞりと呟くと黒金は俺の腰に手を当てた。
へぇ? なんか距離、近すぎねぇか?
てか? 鼻先くっつくじゃん?
え? え? えぇ!!
「・・・・・・んぅ!」
俺の唇に柔らかいものが覆い被さり、ぬるりとしたものが唇の隙間を沿って動く。
堅く口を閉じ、それ以上の侵入を許さない。
眉間に皺を寄せた黒金は俺の鼻をギュッとつまんだ。
そんなことしたら息が・・・・・・。
くっそっ! 負けてたまるか!
そこからは我慢大会だった。
しかし、鼻で息をしている黒金と鼻も口の両方を塞がられた俺とでは苦しさが全然違う。
かなり限界が近づき、バシバシと黒金の胸を叩く。
「んんんん―――! っぷはぁ」
新鮮な空気が入ってくると同時にもう一度口を塞がれた。
そのわずかな瞬間を黒金は逃さなかった。
し、舌!?
い、嫌だ!
両手に思いっきり力
を込め突き飛ばす。その時、黒金の唇を噛んだのか、端から血が滲んでいた。
「いてぇな・・・・・・」
「自業自得だ・・・・・・! 何のつもりだよ。俺男だぞ!」
「そんなもん気分だよ。お前を惚れさせたくなった」
「はぁあ゛?」
何言ってんだこいつ!
俺の顔は今まで以上に引きつっているだろう。
「俺さ。自分に逆らわれるとそそられるだよね。そういうのって服従させたくなるじゃん?」
黒金は薄く笑みを浮かべる。それを見た俺の背筋は凍る。
「うわ、ないわー」
何こいつ、こんな性格だったか?
俺は黒金と距離をとってどん引きした。
「これから覚悟しとけよ。夜なんて気を抜いてみろ。何されるか分かんねぇぞ」
「はぁい?」
そう言って黒金は部屋から出て行った。
え、もしかして、これは、かなりまずいことになった?
どうしよう・・・・・・。
頭を抱えていたら母さんの声が1階から聞こえてきた。
「ゆうちゃん、夜ごはんできてるよー。早く、降りてきてー」
俺は「はーい」と聞こえるように大きく返事をするが、うろうろと部屋の中を行ったり来たりを繰り返す。
ヤバイ、今、あいつと顔を合わせるなんて嫌だ。
だけど、行かないと母さんに怪しまれるし、飯は食いたい! っく、背に腹は代えられない。
食べ盛りの高校生には目先の恐怖よりも、食欲の方が勝ってしまった。
階段を一段一段下り、そして、リビングの戸を開ける。
母さんと父さんが二人で、そして、やつが反対側に座っている。
必然的に俺は黒金の隣だ。
「勇樹さん、はい、あ~ん」
父さんは少し顔を赤らめながら口を開き、母さんは手を添えて箸に挟んだ物を父さんの口の中に入れた。
「うん、すごくおいしいよ」
「まあ」
二人の間にはハートが飛び散り、残骸が俺の頭にごつんと容赦なく当たる。
な、なんなんだ! このバカップルとも言える行為は!
母さんたちの行動に呆れて、俺が箸で挟んでいた具がぽろりと床に落ちた。
「おい、落としてんぞ」
「知ってるよ!」
落としたものを拾い上げ、皿の端に避けて置くとテーブルに並んでいる料理をこれでもかと口に放っていく。
こうなったら、早く大人になって、独り立ちしてやる!
夜
暴飲暴食で俺のおなかは異常な大きさになっていた。
「く、くいすぎた・・・・・・」
苦しい・・・・・・。早くお風呂は行って寝てしまおう・・・・・・。
重たい体を引きづりながら、風呂場へ直行し、面倒くささから髪を適当に乾かして放置する。
「これくらいならすぐ乾くでしょ」
若干、湿り気が残っていたが気にせず、ベッドへとダイブした。
電気が消され、時計の針が動く音が妙に大きく聞こえてくる。
じーっと暗い闇と対面していると、黒金のあの言葉が浮かんできた
「これから覚悟しとけよ。夜なんて気を抜いてみろ。何されるか分かんねぇぞ」
ね、眠れねぇ!
暗闇の中で目をこらして、反対側にいるはずの黒金をぼんやりと見た。
ベッドの布団が盛り上がって、少し上下している。
眠っているのだろうか。
しばらく観察していると黒金の影が大きく動き、俺の体がびくっとなる。
「うわー、びびった」
もしかしたら、起きているかもしれない。
寝たら、襲われるかもしれない。
そんな不安と緊張から眠気はどこかへ飛んでいき、目が冴えてしまった。
刻一刻と時間が過ぎていき、気づけば辺りはうっすらと明るくなり始めていた。
そして、目覚まし時計が朝を告げた。
「嘘だろ、もう朝かよ。俺寝れてねぇ―し!」
バシッと、時計の音を止めた後、重い体を起こし、着替えて1階にいく。
「おはよう。母さん」
「ゆうちゃん。おはよう」
「母さん、ご飯ちょーだい」
「はい、はい」
すでに朝食を食べ始めている黒金の横に座ると、鼻がむずむずとする。
「は、は、は、ぶへっくしょん!」
「うわ、きったねぇ!」
母さんが朝食を机に置こうとした時、俺は思いっきりくしゃみをした。
「なに? ゆうちゃん風邪?」
「んあ? これくらい平気だよ」
そう言ってパンを口の中に入れてはむはむとする。
なんか、食欲ないなー。
昨日食い過ぎたせいか?
いつもより遅めのペースで出されたものを残さず食べる。
「行ってきます」
玄関先でそう告げたあと、もこもことした灰色の雲が目に入ってきた。
なんか雨が降りそうだけど、大丈夫だよな。
てくてくと順調に歩いてら、少しふら~として体が揺れて壁に頭をぶつけた。
「いってぇ」
「なーにやってんだよ。バカだな」
と声をかけられ、頭にポンと手を置かれた。
「ん、黒金? うるさいなほっとけよ・・・・・・」
反論する気力がなく、力なく答えてすたすたと学校に進み出す。
黒金は突っ立ったまま、頭を掻いた。
「なんだ?あいつ」
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